どんな仕事も一緒です。自分には無理だと思われる仕事の依頼が来たら、とにかく受けて立つことです。やれると思うから先方は依頼してくるのだから、その機会をのがしてはだめ。舞台では一言くらいしか台詞がないお役しかやらない僕がここですべての芝居を覚えなくてはならなくなった。それが僕を骨太にしてくれました。

若い塾生が育ってきたのはよかったのですが発表の場がない。そこで父の提唱で、僕が座頭となってこれらの塾生と一緒に公演をする「平成若衆歌舞伎」を立ち上げたのです。しかし稽古をしている最中に「でも誰が見に来てくれるのやろ」と不安に襲われました。これまで「お客さんは僕を見に来てるんじゃない。叔父の仁左衛門や勘三郎兄さんや三津五郎兄さんを見に来ているんだ」と思っていました。ガラガラの3階の客席をどうしたらいいのかなんて考えてもみませんでした。座頭、つまりリーダーになるということは全体
に責任を持つことなのだと思い知らされたのです。

 座頭の僕も若手、ましてや率いる塾生など誰も知りません。どうやったら集客できるのか。もし自分が歌舞伎など見たことのない客だとしたら、なにをもって公演に足を運ぶかを考えてみました。まず、四谷怪談などのようによく知っている演目である。次に、斬新でわくわくするようなチラシやポスターがある。最後は、テレビなどで顔を知っている役者が出ている。この3つでした。それまで歌舞伎以外にはまったく興味がなかった僕が、愛之助を少しでも知ってもらおうと現代劇にも出るようになったのにはこういう背景があったのです。

 どんな仕事の世界でもリーダーシップというものは求められます。若いころから座頭をさせていただいてきた僕が考えるリーダーの資質は、俗に言う強いリーダーシップで引っ張っていくそれではない。それぞれの人の気持ちをどれだけ広げてあげ、うまくもっていってあげられるか。つまり、目的に向けて人の気持ちをどう調整していくことができるかなのです。

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