「医療保険は、高度な医療技術を扱う『急性期医療保険』と、日常の県境管理からプライマリーケア、在宅器量や介護までを担う『地域包括ケア保険』に分かれていくべきではないでしょうか」

 広がるのは、医療機関から地域といった範囲だけではない。「医療」が指す領域もまた変わっていくだろう。

 これまで「病気になったら病院へ行く」と考えていたものが、「普段から健康を守る」というヘルスケアや予防がより重要になっていく。高齢者の多くが何らかの病気を持ちながら生きていくことを支えるケアも「医師が担う仕事になっていく」と、渋谷教授は言う。

「コミュニケーション能力は、今以上に重要になります。成績がいいというだけで医師になると苦労します。また、医師は、病院内だけでなく地域やコミュニティの中で健康をケアするためのリーダー的な位置づけになるでしょう。そのためには、経営者のようなマネジメントの能力も必要になります」(渋谷教授)

 これまでは専門的な知識が重視された医師だが、知識やデータは人工知能といった情報技術が担い、人の医師はそれらをいかにうまく使いこなせるかがより重要になるというのだ。

 国立病院機構東京医療センター臨床研修科の尾藤誠司・医長は言う。

「これまでは、『病気を治す』のが医師でしたが、『成果を変える』のが大きな役割になります。医師の専門家としての位置付けは変わりませんが、専門知識を持っているというだけではやっていけません。専門家として経験値や暗黙知として培われてきた価値観や態度、クライアントとの関係性がより重要になっていくでしょう」

 医師は「一生が勉強」とよく言われる。これからの医師はそれだけでなく、課題解決につなげるために常に深く考え続け、患者や地域の人たち、医療関係者らとコミュニケーションをうまく取ることがより求められるようになりそうだ。(編集部・長倉克枝)

※週刊朝日ムック『医学部に入る 2017』より

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