絶対に負けられない大一番。
五輪最終予選、あと1勝、もし敗れても1ポイントを獲得すれば日本女子バレーボールチームにとって、そして主将の木村沙織にとっても4大会連続となる五輪出場が決まる。
コートに立つ木村から、笑顔が消えた。
1点1点、木村のスパイクで日本に得点が加わるたび、選手たちは中央に集まり、1つの小さな輪をつくり、互いの背に触れ、目を見て、次の1点も取りに行く。いつもと変わらぬルーティーンの中、違っていたのは木村の表情。常に笑顔を絶やさずにいた主将から、笑顔は消え、鬼気迫るような、戦う顔がそこにはあった。
長年に渡り、東レアローズで共にプレーしてきた迫田さおりは言った。
「やっぱり沙織さんだな、と。こういう大事な時に、本当に頼りになる。今日は、沙織さんでした」
1人ではなくチームで戦う競技である以上、誰か1人の力で勝てるわけではない。だが、それぞれが果たすべき役割の中に、「絶対に崩れてはならない」「ここぞという時に先頭に立って勝負する」ことがあるならば、その役割が課せられていたのは、間違いなく木村だった。