外に出ると、水平線が朝焼けで赤く染まっていた。太平洋の波もうねり、艦が大きく揺れていた。

 飛行甲板には攻撃機がエンジンの試運転をしながら、出撃の時を待っていた。前田氏は、搭載した魚雷がうまく投下できるか、念入りに確認した。作業を終えると、整備員が歩み寄った。そして、前田氏の手を固く握り締め、声を絞り出した。

「敵艦に命中させてくれ、頼んだぞ」
「わかった、まかせろ」

 戦闘機、爆撃機、水平爆撃機、雷撃機の順で、次々と甲板をけって飛び立っていく。前田氏は、3人乗りの席の真ん中に座り、出番を待つ。演習とは違い、高品質の燃料を搭載したため、エンジンの動きも快調だ。操縦席に伝わるエンジンの振動が何とも心地よかった。飛行甲板の脇では、白い作業着を着た整備員が勢いよく帽子を振っていた。その光景を見ていると、胸がカッと熱くなった。

 魚雷を抱いた機体は、飛行甲板を勢いよく飛び出す。みるみる高度を上げていくと、整備員たちの白い固まりが次第に小さくなった。遠ざかる加賀を見つめながら、覚悟を決めて心の中でこうつぶやいた。

「さようなら、加賀よ。無事に日本の母港へ帰ってくれ。オレたちは二度とお前の甲板に降りることはあるまい」

 空母群から飛び立った第1次攻撃隊183機は一路真珠湾を目指した。しばらくすると、ホノルルのラジオ放送を傍受した。この電波を追っていけば、ハワイまでたどり着ける。緊張感に満ちた機内にグレン・ミラーの「サンライズ・セレナーデ」が静かに流れていた。晴れ渡った真珠湾上空にたどり着くと、演習場所の錦江湾とそっくりの光景が目に飛び込んできた。前田氏はこう振り返る。

次のページ