艦橋の前に整列すると、艦長の岡田次作大佐が遠くに見える陸地を指さした。
「あれは四国である。本艦はただいま重要な任務を帯びて某地へ航行中である。諸氏のうち何人かが、否、艦の全員が再び故国を見ることがかなわぬことになるやもしれない。ただいまより日本の本土に別れを告げる」
●ビールかけ合い、出撃前の無礼講
すべての乗員が陸地に向けて大きく手を振った。大きな声で叫ぶ者、黙々と手を振る者。それぞれのやり方で、二度と土を踏めないかもしれない母国に別れを告げた。
加賀は日本列島を北上し、11月23日早朝には、択捉(エトロフ)島・単冠(ヒトカップ)湾に寄港した。艦内の窓から外を眺めると、目の前で、日本海軍が誇る連合艦隊が湾内を埋め尽くしていた。主力空母をはじめ、戦艦や巡洋艦……。その艦影が美しく見えた。
「一体、こんな大艦隊でどこを攻撃するのか」
答えは翌24日にわかった。艦隊司令部から加賀の航空隊員に対し、旗艦の空母「赤城」に集合するよう命令があった。赤城の作戦室に入っていくと、厳しい表情を浮かべた第一航空艦隊参謀の源田実中佐のほか、艦隊の幕僚たちが顔をそろえていた。作戦室の中央には、畳4畳分の巨大で精巧な模型が置いてあった。湾内に島がある地形を一目見た前田氏はピーンと勘が働いた。
「まさか真珠湾では……」