「道義的、モラル面での問題はさておき、景品表示法上、宮内庁と取引実態がなくともあたかも取引があると称することの一事だけをもって違法とはいえない」

 景品表示法では、「不当表示」を禁止している。これは、たとえばノンブランドの国産牛肉をあたかも国産有名ブランド牛肉と表示して販売する、コピー紙の古紙配合率が実際には50%であるにもかかわらず100%と表示するなど、商品の品質について消費者が誤認する広告行為を指す。

 宮内庁御用達という言葉は、宮内庁との取引関係があるかないかを意味するものなので商品の品質について述べているわけではない。だから景品表示法、違法とはいえないというのだ。

 では、宮内庁は業者が「御用達」を自称する行為をどうみているのか。

「宮内庁としては関与することはない。現在、制度上存在していない“宮内庁御用達”について宮内庁として何かいうことは現実的ではないからだ。警察や消費者庁が対応する事柄だと認識している」

 事実上、野放しとなっている“御用達”の自称問題だが、本当に宮内庁と取引関係にある、もしくは献上を行っている企業にとっては騙り商法にも似た御用達自称企業に憤りを覚えているかと思いきや、意外な声が返ってきた。

「たとえ宮内庁との取引がなくともそう看板を掲げられた以上、精進してお客様を喜ばせ、御用達の名に恥じないご商売をされることを願っております」(戦前から宮内省御用達として納品を続けてきた菓子業者)

 たとえ、宮内庁と取引関係になくても、客からの信頼を得て“御用達”と掲げた看板に見合う商売ができればいい。だが、看板に偽りありのまま、精進を怠り、客からの信頼を得られなければ、その看板に塗られる泥は自社ではなく宮内庁にほかならない。うっかり掲げるにはあまりにも大きな看板だ。

(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)

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