宮内庁御用達といえば高級品のように聞こえるが…(※イメージ写真)
宮内庁御用達といえば高級品のように聞こえるが…(※イメージ写真)
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 掲げられた看板には客への責任が伴う。

 和・洋菓子、コーヒー、紅茶、花卉(かき)、鞄に文房具……などなど、街で、ネットで、わたしたちが手に取るこれら商品に、時折目にする言葉がある。「宮内庁御用達」だ。

 宮内庁御用達として知られ、長らく花卉を宮内庁に納入している東京都の青山花茂本店ではその言葉の重みをこう語る。

「質の高い商品を提供し続けなければならないという責任をひしひしと感じています」

 いつの時代でも、客は、その思想信条、立ち居地を問わず、皇室、そこに通じる宮内庁、御用達という言葉にそこはかとない安心感を抱く。

 客は、皇室に、宮内庁と取引している企業、納入している商品ならさぞかしその質も高かろう、皇族方も使っている商品だ。ならば大丈夫だろう。そこにはそんな思いがある。

 もっともこの宮内庁御用達とは、今は制度化されているものではない。

 御用達という制度は、戦前のかつてに制度化されていた「宮内省御用達」に由来する。納入と献上、御用達にはこの2つがあった。納入は旧宮内省と業者の間で行われる売買契約、取引行為である。対して献上は業者が無償で皇族に商品を贈ることを指す。

 戦後、宮内庁となり、1954年(昭和29年)に御用達制度は廃止となった。

 しかし、その後もいくつかの業者がこれを名乗っているのは「御用達」が制度化されていた時代に納入、献上を行っていた業者、もしくは制度廃止後、他の中央官庁や地方自治体同様、「調達参加業者」として宮内庁と取引関係にある業者や、皇族に商品を献上している業者が、かつての慣習に倣って「宮内庁御用達」と看板を掲げているのがその真相だ。

 御用達制度があった戦前から戦後の一時期、そして現在でも、その業者選定には厳しい基準が設けられている。とりわけ、献上を行う業者は警察によりその経営者や社員の思想、保健所により商品の衛生状態にも厳しい調査が行われるという。

 だが、献上という制度の存在は思わぬ弊害を生んだ。業者が無償で皇族に商品を“送りつける”ことで勝手に「宮内庁御用達」を名乗るというものだ。ひいては皇族への献上、宮内庁との取引が実際にはないにもかかわらず、あたかも献上や取引があるかのように装い、自社や商品を“箔付け”する信用創造行為が横行するようになった。

 しかしこの消費者を欺くような「宮内庁御用達」を自称する行為、法的には問題ないのか。消費者庁に聞いた。

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