北陸新幹線開業で活気づく北陸地方の自慢の味覚といえば、新鮮な海の幸が真っ先に浮かぶ。しかし、B級グルメもお試しあれ。近年、濃いしょうゆ味の郷土ラーメン「富山ブラック」が注目を集めている。
富山ブラックの元祖といわれる「西町大喜 西町本店」は、富山市の中心市街地にある。店全体に濃いしょうゆの香りがしみ込み、外観も店内もまさに「しょうゆ色」。メニューは中華そばの並、大、特大のみである。
この店は、1947年に「大喜」という店名で創業した。大喜のラーメンは、富山大空襲で焼け野原となった街の復興に携わる労働者の胃袋を満たしたソウルフードとなった。最初はあっさりしたしょうゆ味だったが、米飯を持ち込んでラーメンをおかずに食べる客が多く、汗で流れ出た塩分を補給する狙いもあって、味はどんどん濃くなっていったようだ。黒いスープ、たっぷりのチャーシュー、ざく切りの白ネギ、黒コショウという富山ブラックのスタイルは、客のニーズに応えて生まれた。濃いしょうゆ味の原液は、数種類のしょうゆに酒などを混ぜ、1カ月ほど寝かせた後でチャーシューを煮てから再び寝かせてある。スープはあっさりとした鶏ベースだ。
2000年ごろに飲食店経営会社プライムワンが「大喜」の創業者から経営権を引き継ぎ、店名を「西町大喜」に変えた。現在は富山市内に5店舗を構え、富山駅構内に新店舗をオープンしている。
「大喜」の創業者・高橋青幹さん(故人)は謎の多い人物である。家族はなく、経営権譲渡に際してもレシピなどは残さず、「見て覚えろ」と突き放したという。知人はこう話す。
「マスコミ取材は相次いだものの、写真・映像撮影はNG。数年前に亡くなった時は遺影がないまま葬儀が行われたんです。食品メーカーから商品化の依頼はひっきりなしにあったが、すべて断っていました」
「大喜」を原型とした濃いしょうゆ味のスープのラーメンが今日、「富山ブラック」と呼ばれている。大喜に追随するスタイルの店でも鶏以外でだしをとったり、やや薄めの味にしたりするなど、独自の変化を遂げている。また、「富山ブラック」の看板を掲げて富山県外に出店し、通信販売を行うなど、方向性はさまざまだ。