「こうして、おいしいものを食べられるだけで、幸せだよね」

 と、食事のたびにごきげんだった。

 父の介護をしていた時の母親も、わたしたちが行くと必ず言った。

「なんか、おいしいもの食べようか?」

 鍋をしてくれたり、お寿司を取ってくれたりした。

 そして、言った。

「やっぱりおいしいもの食べていると幸せやね」

 このふたりを見てきたからかもしれない。

 落ち込んだ時、つらい時、わたしは、「美味しいもの」にこだわる。ひとりで食べるのが寂しい時は、

「おいしいもの食べに行こう」

 と、誰かを誘う。

 そして、わたしは、コーヒーが好き。おいしいコーヒーを飲んでいると、ごきげんになれる。自分がごきげんになれる食べ物や飲み物を分かっているといい。

 わたしを手っ取り早く元気にしてくれる食べ物は、バームクーヘンとドーナツ。

 ちょっとした空き時間にバームクーヘンを食べて、コーヒーを飲むとごきげんになれる。

 仕事などがうまく行かずに落ち込んでいる時は、ミスタードーナツに入って、昔から大好きなドーナツとコーヒーを飲んでしばらくポーっとする。

 意外とこれでごきげんに戻れたりする。

 もちろん、そんなに簡単に行かないことだって山ほどある。

 でも、とりあえず温かいものを飲んだり食べたりするだけで心が落ち着くことは、いっぱいある。

 2011年3月11日、東日本大震災の時、わたしは仙台にいた。とにかく東京に戻ろうとタクシーを拾った。

「行けるところまで行ってください」

 そう言ったものの、どんどん日は暮れてくる。

 町は、停電していて真っ暗。

 やっと、福島県の郡山で、開放しているホテルにたどり着いた。

 その時に「自由に飲んでください」と、出されたコーヒー。温かかった。

 そして、これからどうなるのか分からなかったけれど、

「きっと、なんとかなる」

 そんな希望をもらった。