学校にも通わず、働いてもいない。「若年無業者」ともいわれる若者たちは、今やその数、200万人を超え、15歳から39歳までの16人に1人がそうだともいわれる。

 若年無業者に対して、「一日中ゲームやパソコンをする生活で、働く意欲、やる気が全くない怠惰な若者」というイメージが定着してしまい、メディアやネット上では批判すべき対象となっている。しかし、若者無業者の実態を見ると、こうしたイメージは必ずしも当てはまらない。

「平成25年度版 子ども・若者白書」によると、無業の理由について「病気・ケガ」と回答した人が全体の約30%と最も多く、「学校以外で進学や、資格取得などの勉強している」と回答した人も10%を超えている。つまり、少なくとも40%以上の若年たちは「一日中ゲームやパソコンをする生活で、働く意欲、やる気が全くない」人たちではないといえる。

 朝日新書『無業社会』は、そんな若年無業者の実態に迫る。著者は、NPO法人育て上げネット理事長・工藤啓氏と、立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授・西田亮介氏だ。

 工藤氏は、誰もが無業になりうる可能性があるにもかかわらず、無業状態から抜け出しにくい社会を「無業社会」と定義し、一部の若者だけの問題ではなく、全体で解決すべき社会課題であると訴える。その上で、働くことが当たり前という考えがある一方、働けることや働き続けることが当たり前でなくなりつつある現状を指摘する。

 統計的に見ると、無業になりやすいのは「低所得、低学歴、非正規労働のみ」といった経験を持つ若者だが、都内の有名私立大学から有名企業に入社したからといって順風満帆なキャリアが約束されているわけではない。

 本書で紹介されているAさんもそのひとり。

 Aさんは、企業説明会や面接で聞いていた話と実際の職場環境が大きく異なり退社を決意。勤務した日が公休になり、残業代もつかなくなったことに対して上司に改善を求めたところ、“飲食業界の事情や会社の文化をわかって入社したのに、今さらなにを言っているんだ”と怒られる始末。会社のビジョンと現場の実情がかけ離れていることに嫌気がさして退社するも、外側から知ることができる職場環境と実態がどの程度違うのかに過敏に反応してしまい、就職活動ができないという。

 ほかにも本書では、国立大学卒業後、難関資格を取得したものの、人間関係が苦手でひきこもりになってしまった人、就活で100通のお祈りメール(不採用通知)に心を折られて面接が受けられない人、初心者歓迎のIT企業に入社するも教育なし・休みなしで突然退職勧奨された人など、様々な実例を紹介。無業に至る過程はじつに多様で、若者をめぐる環境がいかに厳しいのか、その実態が浮かび上がる。

「働かない」ではなく「働けない」。

 若年無業者がさらされている様々な誤解。最も顕著な誤解が、「働くことができない若者は怠けている」というものだ。それが大きな誤解であるということが、本書を読むと理解できる。

 誰もが若年無業者になる可能性があること、あるいは、家族や友人といった身近な人が若年無業者になりうること。そのことを我々がどのように受け止め、どのように社会を変えていくのか、今後の大きな課題だ。

暮らしとモノ班 for promotion
【10%オフクーポン配布中】Amazonのファッションセールで今すぐ大活躍する夏のワンピやトップスを手に入れよう!