■自宅で読みたい書籍20選
【書評家・永江朗さん選】
『大菩薩峠』(中里介山/青空文庫/無料/1913~41年発表)
新聞の連載と書き下ろしの未完の長編時代小説。幕末を舞台に、主人公の浪士の旅と、関わる人々の人生を描く。青空文庫で無料で読める。スマホでもOK。
『夏の災厄』(篠田節子/角川文庫/924円/2015年)
郊外の街に突如発生した新型感染症で行政は混乱し、住民たちがパニックに陥るパンデミック小説。著者は元市役所職員。初版は四半世紀前と、予言にも似た書。
『ギリシャ語の時間』(ハン・ガン、斎藤真理子訳/晶文社/1980円/2017年)
失語症の女と少しずつ視力を失っていく男が古典ギリシャ語教室で出会い、心を通わせていく。ほろりと涙し、しんみりできる、いま話題の韓国文学。著者はアジア人として初めて英国のブッカー国際賞を受賞した女性作家。
『存在と時間』(全4冊)(マルティン・ハイデガー、熊野純彦訳/岩波文庫/5610円[全4冊セット]/2013年)
ドイツの哲学者による「存在とは何か」を追求する哲学書。最新の解釈に加え、二重三重に解説が施されている親切設計。時間をかけて、難解な哲学書に挑戦してみても。
『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』(片山夏子/朝日新聞出版/1870円/2020年)
2011年3月の東京電力福島第一原発事故当初から、東京新聞記者の著者が作業員たちの生の声を9年にわたり取材した、現場の真実に迫るルポ。今なお原発問題は続いていることを気づかせてくれる。
『声でたのしむ美しい日本の詩』(大岡信、谷川俊太郎編/岩波文庫別冊/1210円/2020年)
万葉集から現代詩まで400近い詩歌を紹介。詩の歴史を押さえながら、日本語の美しいリズムを朗読することで耳でも楽しめる。難しい漢字にはルビが振られているので子どもでも読め、家族で楽しみたい。
『ナショナルジオグラフィック 傑作写真ベスト100』(日経ナショナルジオグラフィック社/1540円/2002年)
創刊以来130年以上の歴史を持ち、地球上の決定的瞬間を撮影してきたナショナルジオグラフィックが、傑作写真100点を厳選した写真集。マチュピチュや海中のタイタニック号などの歴史写真、動物や昆虫といった自然写真など、美しい写真が並ぶ。
『チョコレート工場の秘密 Charlie and the Chocolate Factory』(Roald Dahl/講談社英語文庫/880円/2005年)
世界中で愛され、映画化もされた1964年発表の児童小説。少年チャーリーが不思議なチョコレート工場を見学するファンタジー。平易な英語で書かれているので、勉強の入門にも。
『どうぶつ会議』(エーリヒ・ケストナー、光吉夏弥訳/岩波書店/990円/1954年)
争いが尽きない人間にあきれて怒った動物たちが、平和と子どもたちの未来を祈って会議を開く。愉快でありながら、世界平和という普遍的なテーマを描いた絵本。大人も子どもも楽しめる。
『赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD』(既刊6巻)(山本おさむ/小学館/607~693円/2017年~)
ビッグコミックオリジナルで連載中の社会派漫画。赤狩りにより表現の自由が弾圧を受ける中、ハリウッドの映画人たちの奮闘が史実に則って描かれる。マイノリティーが叩かれる現代日本に通ずる作品。
【紀伊國屋書店新宿本店選】
『源氏物語』(上・中・下)(紫式部、角田光代訳/河出書房新社/1万1550円[全3巻セット]/2017~20年)
日本文学史上屈指の傑作ともいわれる不朽の古典が、直木賞作家による新訳で読める。これまでの現代語訳から、さらに物語性を重視していて読みやすい。
『災害ユートピア』(レベッカ・ソルニット、高月園子訳/亜紀書房/2750円/2010年)
米国での地震やハリケーンなど、災害時に生まれた市民の助け合いの事例を紹介するノンフィクション。緊迫した状況下でもパニックに陥ることなく、人の善意を信じたいと思わせてくれる。
『検疫官 ウイルスを水際で食い止める女医の物語』(小林照幸/角川文庫/792円/2009年)
感染症の拡大をいかに食い止めるか、最前線で奮闘する女性医師を描いたノンフィクション。エボラ出血熱や重症急性呼吸器症候群(SARS)と戦う姿からは、現場の壮絶さがうかがい知れる。