新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと、安倍晋三首相がイベントの自粛や小中高校などの休校を要請したため、大人も子どもも家にいる時間が増えただろう。こんな時だからこそ自宅で楽しみたい書籍や映画・ドラマを専門家に聞いた。
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2月の日本出版販売の店頭売上調査によると、書籍・雑誌などの売り上げは全体で前年比105%と好調だ。そのなかで話題なのが、フランスの作家、アルベール・カミュが1947年に発表した小説『ペスト』。感染症拡大で混沌(こんとん)とする社会の描写は今の状況と重なる。文庫を発行する新潮社の営業担当はこう語る。
「これまでは年間3千~4千冊の売り上げでしたが、今は注文が殺到し、1万4千部を増刷しました。直近の売り上げは通常時の14倍ほどになっています」
書評家の永江朗さんは、感染症が題材の小説として『夏の災厄』もすすめる。
「新型感染症が蔓延(まんえん)し、市民がパニックに陥るさまを描いています。著者の篠田節子さんは元市役所職員なので、行政の混乱などにはリアリティーがあります」
時間をかけられる今こそ読みたいのは長編小説。『大菩薩峠』は候補の一つだ。
「(電子図書館の)青空文庫で、無料で読めます。41巻に上る大長編時代小説ですが、スマホを使えばいつでもどこでも挑戦できます」(永江さん)
前述の日販の調査によれば、休校の影響で学習ドリルが売り上げを伸ばしている。勉強させるだけでなく、子や孫と一緒に楽しみたいという人には絵本の『どうぶつ会議』もおすすめだ。
「人間の愚かさにあきれた動物たちが世界の平和を願って会議を開くという物語で、大人が読んでもじーんとします」(永江さん)
家族みんなで遊びながら楽しめる本もある。紀伊國屋書店新宿本店の担当者は、『世界チャンピオンの紙飛行機ブック』を挙げる。
「紙飛行機の折り方を教えてくれる本です。遠くに飛ばすための角度が細かく書かれているなど、論文のようなマニアックさもあるので、大人でも楽しめます」
また、自宅で待機する子どものために漫画誌などをインターネットで無料公開する出版社もある。朝日新聞出版では「科学漫画サバイバル」シリーズと科学まんがシリーズ「バトル・ブレイブス」の人気作品を3月末まで無料公開する。
感染拡大の影響は、映画にも及んでいる。「映画ドラえもん のび太の新恐竜」や「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」などの話題作の公開延期が発表された。そこで、自宅で見られる名作・良作を紹介したい。
映画ライターの中村千晶さんのイチオシは、山田洋次監督の喜劇映画「家族はつらいよ」シリーズだ。
「2018年公開の最新作では、主婦である妻が家出する。残された家族が大混乱して崩壊寸前になる。熟年夫婦の危機だが、家族で一緒に見て笑って楽しめる」
不安な今の状況にピッタリなのは「サバイバルファミリー」だ。
「ある日突然、世界から電気が消え、不自由な生活に陥る。基本はコメディーで、最初はほんわかした空気だが、次第に水が1本2千円、2500円となり、食べ物のあさましい奪い合いに。緊迫した様がリアルで恐ろしい」
映画評論家の若林良さんは、1980年からほぼ毎年春休みに公開される「映画ドラえもん」シリーズの「のび太と鉄人兵団」を挙げる。
「86年に公開された初期の作品。『メカトピア』というロボットの星から地球侵略を図る鉄人に、のび太とドラえもんたちが立ち向かう。科学には限界があり、どの生命も失敗を繰り返すという藤子・F・不二雄のメッセージが読み取れる」