北原さんも「衝撃だった」と言う。新幹線で駆けつけてきた人や高校生もいた。2時間近く話しても集会は終わらず、「また会いましょう」ということになった。それが、のちにフラワーデモと名付けられた。
やがて、一人でもいいから、自分の暮らす地域でフラワーデモをやりたいという人たちが現れて、全国に広がっていった。
この3月までに、全都道府県に呼びかけ人が誕生し、参加者はのべ1万人を超えた。
名古屋市で呼びかけたカウンセラーの具(ぐ)ゆりさんは、「フラワーデモやりたいけど、デモって何をしたらいいのと北原さんに尋ねた」と話す。
「起きていることを、なかったことにさせたくなかった。性暴力は、受けた側も、なかったことのようにしてやり過ごすことが、私も含めてたくさんある。でも、フラワーデモで声が声を呼んだ。被害の実態が社会の中で可視化された。日本の#MeToo運動が動き始めた。ここから希望が持てる」
北原さんも「1年前とは社会の空気が変わった」と話す。
「被害者が声をあげたことで、社会の理解が深まった。もしその空気がこの判決を引き出したのであれば、声をあげたことは無駄ではなかった」
名古屋高裁の判決のあと、この性的虐待事件の被害女性が、弁護士を通じてコメントを発表した。幼少期から父親に暴力を受けてとても怖かったこと、次第に感情がなくなり「まるで人形のようでした」と綴られていた。そこにフラワーデモへの言葉もあった。
<無罪判決が出たときには、取り乱しました。荒れまくりました。仕事にも行けなくなりました。今日の判決が出て、やっと少しホッとできるような気持ちです>
<昨年、性犯罪についての無罪判決が全国で相次ぎ、#MeToo運動やフラワー・デモが広がりました。それらの活動を見聞きすると、今回の私の訴えは、意味があったと思えています。なかなか性被害は言い出しにくいけど、言葉にできた人、それに続けて「私も」「私も」と言いだせる人が出てきました。私の訴えでた苦しみも意味のある行動となったと思えています>