性暴力に抗議し、被害者の痛みを分かち合うフラワーデモが始まって1年。参加者はのべ1万人を超え、社会の空気を変えた。名古屋高裁では、娘に性的暴行を加えた父親に逆転有罪判決が出た。性暴力をめぐる現状とフラワーデモを取材した、AERA 2020年3月23日号の記事を紹介する。
【写真】国際女性デーにあわせたフラワーデモ。思い思いのメッセージを掲げた
* * *
フラワーデモは、昨年4月11日に始まった。
同年3月12日に福岡地裁久留米支部で無罪判決があった。テキーラを飲まされ泥酔した女性に対する性暴力事件で、判決は、女性は「抗拒不能」だったと認めたものの、被告男性はそれを認識していなかったから無罪とした。
3月26日には、後に名古屋高裁で逆転有罪となった、実の娘に対する性的虐待事件で父親を無罪とした名古屋地裁岡崎支部の判決があった。
ほかにも無罪判決が続いていた。こうした司法判断にびっくりして「これでは被害者が声をあげられなくなってしまう」と案じた作家の北原みのりさん(49)や編集者の松尾亜紀子さん(42)が、同じ思いの人でとにかく集まろうと考え、東京駅前の行幸通りでスタンディングデモをするとSNSで告知した。被害者への連帯の気持ちを表す花を持ってくる、あるいは何か花柄のものを身に着けてくることが、約束事になった。
一連の無罪判決に多くの人が声をあげたのは、判決理由が、被害者の心理や行動にあまりに無理解に見えたからだと、私は思う。だが、「こんな判決おかしい」というコメントは、SNSで激しい批判にさらされた。「弁護士だという人たちから、素人がものを言うな、無罪判決は滅多に出ないのに批判するなといわれて、この判決がおかしいと言うと冤罪を増やすことになるのだろうかと怯えていた」と北原さんは振り返る。
4月11日、夜7時。寒い夜だったことは覚えている。そこは東京駅と皇居の間のキラキラした場所で、仕事帰りの人たちやカップルが歩いていた。
暗闇が深くなるにつれて人が増えていった。300人……500人……。スピーチは20人を超えた。自分の被害をマイクで話す人に、「ありがとう!」と声が飛ぶ。
それは信じられないような光景だった。私は1990年代半ばから細々と性暴力被害者の取材をしてきたが、初めは話してくれる人がなかなか見つからなかった。やがて、閉じた個室の中で話を聞かせてもらうようになり、最近は自分の被害をオープンにする人も増えてはきた。けれど、まさか路上で。真剣に聴く人たちがいれば、あふれ出る言葉があるのだ。自分の痛みも話していいのだ、と思える。