外出するだけで気持ちが和らぐこともある(撮影/片山菜緒子)
外出するだけで気持ちが和らぐこともある(撮影/片山菜緒子)
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AERA 2020年4月27日号より
AERA 2020年4月27日号より

 緊急事態宣言の対象拡大を受け、休校を延長した自治体も多い。家庭では親子の不安やストレスによる弊害などが起きている。AERA2020年4月27日号では、注意点や対処法などについて専門家たちに意見を求めた。

【みんなの不安の声はこちら】

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 大声で怒鳴りつけてしまった。7歳の長男は一瞬おびえた顔で固まり、すぐに悲鳴のような声で泣き出した。泣き声を聞いて、我に返った。自然と涙があふれてきた。

「手を出していてもおかしくなかった。自分が怖くなりました」

 フリーデザイナーとして働くシングルマザーの女性(37)は3月下旬の自宅での出来事をそう振り返る。きっかけはもう思い出せないほど些細なことだったが、一斉休校が始まって以降思うように仕事ができず、イライラが募っていた。

 これまで、契約先や間借りしているオフィスを仕事場に、ほぼフルタイムで働いてきた。だが、休校が始まってからは在宅勤務に。数年前に離婚しており、実家も遠い。学童保育は休校中も開いていたが、息子には軽い喘息がある。万一新型コロナに感染したら……と考えると怖いし、せき込んだらいじめられるかもしれない。家で子どもを見ながらできる仕事は、これまでの半分ほどになった。30万~40万円ほどあった月収は、4月以降激減しそうだ。

「不安を吐き出す先もない。息子がおとなしくしてくれればいいけれど、暇を持て余して騒ぐからつい叱ってしまう。息子も不安定になっています」

 児童虐待防止全国ネットワークの吉田恒雄理事長は、親子それぞれがストレスをため、負のスパイラルが生じる家庭が増えかねないと指摘する。

「仕事を休まなければならない親、家から出られず生活リズムが狂ってしまう子ども、それぞれがストレスを増幅させています。社会全体が不安ななかで、これまで虐待リスクが小さかった家庭でも新たな問題が生じている可能性があります」

 川崎市でフリースペースを運営する「たまりば」理事長の西野博之さんは、休校中もスペースの運営を続けた。西野さんの元には休校要請が出た直後から、主に母親たちの悲痛な声が届く。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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