――ほかに中高生のころの思い出は?

 とくに楽しい思い出はないです(笑)。覚えているのは文化祭や体育祭などイベント。そもそも団体行動が苦手なので、イベントが終わると、かならず誰かを嫌いになっていました(笑)。

 イベント中は、誰かとペアやグループになって団体行動をさせられます。そうすると僕は「あいつ全然、言うことを聞かないな」とか「自分のことばっかり言う奴だな」とか、嫌な面が見えてきちゃうんですね。

「吐くほど嫌い」っていう強烈な嫌悪感じゃないんですが、いちいち他人の嫌なところを発見する自分に腹が立つし、心が狭いなとも思う。ようするに気持ちのいいものじゃないんですね。だから、いつもイベントのたびに「ああ、また誰かをキライにならなきゃいけないのか」って暗澹(あんたん)たる気持ちになってました(笑)。

 一方、大学は楽しかったんです。ちいさな美大に入って、自分の作品を見せたら喜ばれたり、意見交換をしたりね。

 大学で「楽しい」と思うことができて初めて気がついたのは「中学や高校は楽しくなかったんだ」と。中学や高校では、なんのいい思い出もなかったけど、それをつらいと思うだけの楽しいこともなかった。それが僕の中高生時代です(笑)。

――なるほど。いつごろから絵本作家になりたいと思われっていたのでしょうか?

 絵本作家になりたいとは思ったことはありません。

 大学院を出たあと、ふつうの会社に入ったんです。でも、さっきも言ったとおり、団体行動が僕は全然ダメ。まわりにあわせるのがすごく苦痛だったし、課長にもずっと怒られていました。

 そこで始めたのが「乖離」です。現実世界ではふつうの社会人としてふるまって、その一方で、自分にしかわからない仮想世界を頭のなかにつくりあげてそこに没頭する。勤務中も通勤中も、ヒマさえあれば、手の平を凝視して自分にしか見えない小人を見る訓練をしていました。

――けっこうヤバいですね(笑)。精神的に追い詰められると、現実と空想を乖離させるとは聞きますが、かなり典型的なエピソードですね。

 すごいでしょ。自分でも思い出すとゾッとするんだけど、3Dで想像してました。こう、とんがり帽子の小人が、誰よりも自分を理解している奴だ、と(笑)。

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課長の悪口をラクガキ 同僚女性が意外な反応