――著書の『もう ぬげない』(ブロンズ新社/2015年刊)では、主人公が1ページ目から服が脱げないと諦めてます。教訓を伝える本ではないですね。
『もう ぬげない』でやりたかったことは一個だけ、主人公に「もうダメだ」って言わせたかったんです(笑)。
努力して、友情を得て、勝利をつかみ取る、というのが一般的な美談です。でも、僕はそういう子じゃなかった。努力ができる主人公が登場しても、僕はちっともホッとしなかったんです。
だから、僕が描くなら誰でも失敗をくり返す主人公を描きたかった。しかもその主人公は、すぐ失敗をするのに、反省もせず同じ失敗をくり返す。そういう絵本があってもおもしろいんじゃないか、と思ったんです。
――「立ち向かわない主人公」が登場するからヨシタケさんの絵本はおもしろいんですね。
僕自身が、立ち向かわずに逃げてきましたからね。逃げて逃げ続けて絵本作家になった、という感覚です。
団体行動がイヤで会社から逃げてきましたし、絵本作家なのに色をつけるのが苦手なので、色付けは人にお任せしています。
でも、そういうできないことから逃げてきたおかげでやれることもたくさんあるんです。大人や世間は「逃げるな」「立ち向かえ」といつも言います。そういう叱咤激励に対して、ずっとイラッとしてきました。
そういうイラッとした思いを絵本にすることができました。困難から逃げ始めたときは、僕も迷ったり、コンプレックスに思ったりするときもありました。でも、思いどおりにいかなかったことは、それもひとつの財産になるんです。おもしろいことに人間は生きていると、マイナスの経験も、そこで得たものを使えるようになるんです。人は自分が思っているほど強くも弱くもなかったです。
だから僕は、このまま立ち向かわずに逃げ続けよう、と。逃げ続けた先にある景色を見に行こう、と。
――私自身は不登校経験が原点になっているのですごく共感します。学校から逃げ続けた先にあるものを見に行こう、と。