『腸内革命』(海竜社)の著者・藤田紘一郎氏(医学博士)は、人が健康に暮らすために"腸内細菌"に注目する。腸内細菌とはいったい何か、藤田氏に聞いた。

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 腸内細菌は消化をしたり病原菌を遮断したりするほかに、ビタミンを合成したり、ドーパミンやセロトニンなどの幸せ物質のもととなる前駆体を脳に送るはたらきもあるんですよ。
 脳の中のセロトニン量が減るとうつになるんですけれど、腸内細菌がないと、ドーパミンやセロトニンが作れないんです。腸内細菌をなくしたねずみは非常に攻撃的になります。再び腸内細菌を入れてやると、おとなしくなります。腸内細菌が心にも影響を与えているんですね。
 腸内細菌の状態を知るには、うんちを見ればいい。うんちを食べ物のかすだと思ったら大間違いで、食べたもののかすは5%くらいです。半分以上は死んだ腸内細菌と生きた腸内細菌です。腸内細菌は100兆個くらいあります。これが日々すごいスピードで入れ替わっているんですよ。
 実は、日本人の腸内細菌は戦前の3分の1くらい減っているんです。便の大きさを見れば、腸内細菌の量がわかります。お肉ばかり食べていると、うんちは小さくなってくさくなってくるでしょう。お肉は腸内細菌を増やしませんから。穀物や野菜も一緒に食べると腸内細菌が増えて、うんちもたくさん出るようになります。
 われわれの体を構成している細胞とか脳とか免疫細胞は、1万年前からまったく変わっていないんですね。ジャングルや草原を裸で、はだしで走り回っていた、同じ体で生きているんです。環境をきれいに変え、快適な文明社会を作ってきたはずが、そこに落とし穴があった。活性酸素やストレスがいっぱい生まれるようになってしまいました。
 この社会の中で健康に生きるためには、なるべくストレスから逃げて、1万年前の生き方を組み込むことです。自然に触れて、色のついた野菜や果物を取って、湧き水など生で飲める水を飲む。
 落ち込んだら、旅行へ行くとか、野球を見に行くとか、好きなことをして気持ちを切り替える。いい友達をもち、楽しく笑って暮らすことですね。

※週刊朝日 2012年5月18日号