浅草氏がクロッキー帳に妄想を描きなぐれば、その線に生命が吹き込まれ、トンボ型有人飛行ポッドが空へ飛び立つ。現実と空想の境界線が無くなる瞬間。アニメの場合、魔法のように絵が動き出す快感があったが、実写化は2Dが3Dになる、これもまた魔法。

 そして舞台となる芝浜高校、毎回ちょいちょい出てくる413の部活動と72の研究会の実態が面白い。学校脇に流れる川の所有権をめぐって争う上水道部と下水道部。新聞部から分離独立した号外部。受け身研究会に無鉄砲同好会。

 野球部は「ピンチでマウンドに集まる時、呼ばれない」という理由で、外野部と内野部に分裂する。果たして外野部だけで甲子園に出場できるのか? 人のこだわりの数だけ部活があるとしたら、どんな部活動を始めようか? そんな妄想も止まらなくなる。

 浅草氏は考える。風車を描いただけでは風を感じられない。しかし、「何か周りに舞うものがあれば風が見える」と。すると妄想の風車は回り出し、中庭にある紙風船が、凧(たこ)が、傘がフワリフワリと空に舞い上がる。

 家の中に閉じこもっている今こそ、狭い所を深く深く。その妄想世界はどこまでも広く自由だ。

週刊朝日  2020年5月8‐15日合併号

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