■母の突然の死

 同居から10年後。小宮さんの母は自宅で突然倒れ、救急搬送されたが、4日後に帰らぬ人となる。83歳だった。

 母の遺産は、この家と預貯金約260万円。家は築40年以上経つため、5年前に大規模なリフォームをしたばかり。家の中には母や再婚相手の荷物が大量に遺されていた。リフォームの際、処分するように何度も言ったが、母は一向に手を付けず、母の荷物が入った段ボール箱は、5年間開かれないまま、6畳の2部屋を埋め尽くしていた。

 悩んだ末に小宮さんは、荷物の処分を遺品整理業者に依頼。費用は約50万円にも上った。

 ようやく母の荷物を処分し、スッキリした家で家族4人の生活をスタートできると思った矢先、家の名義を母から自分に変更しようと、資料を取り寄せた小宮さんは愕然とする。土地も建物も、15年前に亡くなった母の再婚相手のままになっていた。

■死人に口なし

 生前に母から聞いた話によると、再婚相手が亡くなった15年前、母と再婚相手の息子たちは、遺産相続の話し合いをした。再婚相手の遺産は、当時築25年になる家と預貯金約20万円。家と土地の資産価値は50万円にも届かず、土地を売ろうにも、家の解体費用でマイナスになることが分かった。

 何よりも、家を解体したら、母は住む家を失ってしまう。20年近く前に独立していた再婚相手の息子たちは、負の遺産を相続するくらいなら、母にすべて相続させたほうがいいと判断したのだろう。それぞれの思惑が一致し、少しも揉めることなく遺産相続の話をまとめた。

 ところがこのとき、相続人の3人で話し合っただけで専門家は立ち会っておらず、遺産分割協議書の作成も、相続放棄の手続きも、相続登記もしていなかった。

 遺産はすべて母が相続したと聞いていた小宮さんは、慌てて再婚相手の息子たちに連絡をとり、名義変更をお願いした。すると彼らは、「そんなことは記憶にない。家は母に貸していた」という。さらに、「母は、家の資産価値50万円のうち、相続金額分を家賃として払うと約束していたのに、15年間一銭も払ってもらえていない。これを機に精算してほしい」と言われてしまう。

「死人に口なし」だ。小宮さんは絶句した。

 再婚相手の名義のままでは、母の相続分の1/2は小宮さんがそのまま相続できるが、再婚相手の息子たちの相続分は、買い取るか贈与してもらわないと名義を自分に変えることができない。しかも、5年前に大規模なリフォームをした手前、いまさら家を手放すことは考えられない。

 仕方がないので、小宮さんは再婚相手の息子たちに、15万円ずつ支払うことを提案。ところが彼らは、それぞれ20万円を要求。足元を見られる形となった小宮さんは、しぶしぶ20万円ずつ支払い、ようやく家の名義を自分に変えることができた。

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生前整理は死ぬための準備ではない