■生前整理は物、心、情報の整理を行うこと

 小宮さんは、金銭的にも精神的にも、思いもよらぬ大きな負担を強いられてしまった。15年前、母と再婚相手の息子たちが、然るべき手続きを行っていたら避けられた負担だ。

 では、彼らだけが悪いのだろうか。

「母と再婚相手の息子たちの問題だから、小宮さんは悪くない」と思われるかもしれないが、母の言うことを鵜呑みにせず、元気なうちに、一緒に母の財産の洗い出しをおこない、その際に家の名義も確認しておくべきだった。部屋を埋め尽くす段ボール箱も、ただ片付けるよう言うだけでなく、母とともに整理できていたら、遺品整理業者に依頼せずに済んだ。

 まだ使えるものは使い、不要なものは買い取りに出す。時間はかかるかもしれないが、分別して地域のゴミ収集日に少しずつ処分するだけでも大幅な削減になる。そして何より、人生の節目節目で考えていたことや苦しかったこと、楽しかったことなど、思い出話を聞くことができただろう。小宮さんの父と結婚する前の母、離婚後の母、再婚してからの母など、知らなかった母の一面を知ることができたはず。その中には、娘に対する懺悔や感謝もあったかもしれない。

 生前整理の時間は、「ただの物理的な片付け作業の時間ではない」と、三浦さんは言う。

「生前整理は死ぬための準備ではありません。その後も生きることを前提に、物、心、情報の整理をおこなうことです。生前整理は過去を振り返り、これからの人生をより良く生きるためのきっかけになります」

 多くの人は、思い入れのあるものを手放すとき、心の整理を伴う。まずは親の思いに耳を傾けながら、「片付けよう」という気持ちに持っていくことが大切だ。自分の手で整理すれば、写真や手紙など、思い出の品も見つかる。思い出の品によって過去を振り返れば、もう一度会いたい人、やりのこしていたことにも気がつける。生前整理は、「後悔の少ない人生を送るカギ」になるのだ。(取材・文/旦木瑞穂)

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