自粛警察、感染者へのバッシング――。新型コロナウイルスへの不安や恐怖が、差別や偏見を生み出している。どのように起きるかを知れば、加担や助長を防げるはずだ。AERA 2020年6月1日号から。
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ウイルスという見えない脅威への不安から、特定の対象、つまり感染した人や地域、職業などを見える敵とみなして嫌悪する。その対象を偏見・差別して遠ざけることで束の間の安心感を得る、という構造がある。
残念ながら、懸念(けねん)された通りのことはリアルの世界でもネットの世界でも起きた。クラスターが発生した組織の関係者に対して、飲食店が入店拒否したり、バイト先が出勤拒否したり。県外ナンバーへの嫌がらせや、感染を知りながらバスで帰京した人へのデマと中傷が相次いだケースもある。
京都大学レジリエンス実践ユニットでは、3月中旬に出した声明の中で「コロナハラスメントの回避」の重要性に触れた。同ユニットは、自然災害や世界恐慌、パンデミック、テロ攻撃などに対するレジリエンス(強靱性=きょうじんせい)を確保するための実践的研究を行う組織だ。ユニット長の藤井聡教授は、日本が採った感染対策・経済対策の観点から、コロナバッシングが起きる要件がそろってしまったとみる。
要件とは、(1)補償がないこと、(2)クラスター対策を採ったこと、(3)PCR検査の少なさ、だ。
自粛することは収入が断たれることを意味するが、十分な補償がないため、「早く仕事をしなければ」「感染者が減らなければ仕事ができない」「仕事ができないのは出歩いているやつのせいだ」と怒りが出現する。結果として、「自粛警察」「コロナ自警団」と呼ばれる現象が導かれる。
「クラスター対策は、感染者を見つけ、その周りをしらみ潰しに調べて感染者全員を見つけ出そうとする方法です」
それがまさに、「魔女狩り」のような状況を生み出した。
「『うちの業界で1人目になりたくない』『うちの大学で1人目になりたくない』という声をよく聞きました。PCR検査の数が多ければ陽性者が増え同じ立場の人が増えるという面がありますが、日本はPCR検査を抑制したため、陽性が目立つ状況が変わらなかった」
藤井教授は、問題の根本に、「リスクゼロを目指すことの危険性」があると指摘する。