一方、協力が必要なこと以上に憎しみが増すケースもありました。4月、イスラエル警察は、東エルサレムのクリニックを営業停止にし、医療品の押収を行いました。この医院がパレスチナ当局と関係があるとみたからです(東エルサレムの医療はイスラエル当局の管理下)。
5月には、コロナの広がりを抑制するためにUAEから送られた14トンの緊急医薬の援助品を、パレスチナ自治政府が、普段はないテルアビブへの直行便で送られたという理由で受け取りを拒否しました。援助品には、パレスチナの病院で絶対に必要な10台の人工呼吸機も含まれていました。パレスチナ自治政府の懸念は、この援助品を受け入れることがイスラエルとアラブ世界の関係正常化を認めることを意味すると考えたのです。
イスラエル・パレスチナ間の協力を称賛する人々がいる一方で、反対の声もあります。パレスチナ自治政府のムハンマド・シュタイエ首相は、「イスラエルはパレスチナの都市にコロナウイルスを計画的に蔓延させ、感染した医薬品を病院に配っている」と言って非難しました。一方、イスラエル側の反対の声は、コロナウイルスの感染を抑制する措置を十分にとっていないパレスチナ人がイスラエル側に働きに来ることを妨がないとして、パレスチナ政府を批判するものです。
今回の議論は、イスラエルとパレスチナが、コロナウイルスによって双方にある憎悪の気持ちに打ち勝ち、共に働くことができるのか?ということです。この3カ月、イスラエル人とパレスチナ人は、なんとかお互いの違いを脇に置き、双方を敵とみなすのを止めることができました。
イスラエルとパレスチナの当局者たちは、事態を収集させるために密接に一緒に働いていました。またすばらしい協力関係が医療専門家、当局関係者、NGOの間で結ばれました。
他方、政治家に関しては、誰が正しいかといった「物語の上の闘い」が、今でも幅を利かせています。
私の望みは、コロナ後もこのイスラエル・パレスチナ協力の新しい精神が続いてほしいということです。
○Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。07年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。