9月入学の話題が持ち上がったのは4月下旬。2月27日、安倍晋三首相によって突然出された全国一斉休校だったが、当初予定の4月に入っても多くの地域で学校が再開できず、5月末まで休校が長期化。学習の遅れや学校生活が送れないことへの不安やストレスが高まるなか、「かけがえのない時間を取り戻したい」とする高校生の「9月入学」提案のツイートや署名活動がきっかけの一つになった。
11年には、東京大学がグローバル化を目的に「秋入学」の検討を打ち出した。だが、高校の卒業時期と大学の入学時期の間に生じる"ギャップターム"の問題も要因となり頓挫。今回、小中高も対象に9月入学とする改革ができれば、この問題も一気に解決できる。アイデアがにわかに現実味を帯びたのは、「9月入学はグローバルスタンダード」「チャンスは今しかない」と、小池百合子・東京都知事や吉村洋文・大阪府知事らが支持したからだ。安倍首相も「前広にさまざまな選択肢を検討していきたい」と表明した。
ところが、教育関係者らによる論点整理が進むと課題が次々と浮上した。来年の9月に入学をずらすと、入試が東京オリンピックと重なる可能性がある。新型コロナは第2波、第3波も予測されており、時期をずらしたからといって入学、始業ができる保証がない。卒業時期が後ろ倒しになると、就職時期も遅れ、個人と社会に経済的損失が生まれる。医療現場に人手不足の深刻な影響も与えかねない。
9月入学は、1980年代の中曽根政権下の臨時教育審議会をはじめ度々検討されてきた。実現しなかったのは学校だけでは完結せず、社会全体のシステムも関わってくるからだ。企業の採用や会計年度の変更、30本以上の法改正などが必要になる。
一部の知事たちが、9月入学を積極的に支持したのは「教育のグローバル化」のためだ。しかし9月入学は必ずしもグローバル化につながらないと指摘する専門家もいる。オンラインで、海外進学をサポートする塾やインターナショナルスクールを展開する、松田悠介さんは語る。
「グローバルスタンダードと言いますが、世界すべての国が9月入学なわけではありません。また、国内でも100以上の大学は4月以外の入学受け入れをしていて、9月入学はすでに可能になっています。海外の学生が留学先を選ぶ基準は『教育の質』。入学時期ではありません」