小池百合子東京都知事(c)朝日新聞社
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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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 作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は小池百合子東京都知事について。北原氏は、小池氏を描いたノンフィクションを読んで、確定死刑囚の木嶋佳苗を思い出したという。

【写真】木嶋佳苗死刑囚の裁判の傍聴に通った北原みのり氏

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 ノンフィクション作家の石井妙子氏の書著『女帝 小池百合子』を読んだ女友だちと話していると、「○○さんとそっくりなんだけどー!」と言う人が少なくない。「シェアすべき情報を教えない後輩にそっくり。私が後から聞くと『あれ、言ってませんでした? ごめんなさいー』と上目遣い」とか、「男と戦っているふりをして女性を潰してるのがうちの教授にそっくりで怖い」とか。誰もが周りに一人小池氏的な女性の顔を思い浮かべるのだ。性差別社会は、こうやって女性を分断するようにできている。

 実は私も思い出した。木嶋佳苗だ。私はかつて、首都圏の男性連続不審死事件で殺人などの罪に問われた木嶋の裁判傍聴に通い、関係者に取材をしたことがある。さすがに都知事と、死刑囚になってしまった女性を並べるのは……という思いもあるが、石井氏の描写した小池氏は、私が描いた彼女と重なる点が少なくなかった。顔色を一切変えない黒い瞳の上目遣いや、鈴の鳴るような声で相手を黙らせる圧力に、親しい女友だちはいなく、むしろ女性を見下し、男性にすりより生き抜く力業……。もしかしたらここまでは、「女性が社会をのしあがるためのサバイバル」くらいに言ってのける人もいるだろう。ただ、『女帝』には本気で小池氏を恐れ、気味悪がる人々が何人も登場する。その「恐怖」とは何だろう、と考えさせられたのだ。

 例えば、カイロ時代に小池氏が結婚した男性が仮名で登場する。『女帝』によれば、この男性は小池氏の語学力向上のために利用され、あっけなく捨てられた。周囲が見てわかるほど男性は結婚生活に苦しみ、小池の名前を出すと「その名は聞きたくない」と全身で拒絶反応を示したそうだ。ところが小池氏が82年に出版した『振り袖、ピラミッドを登る』には結婚の事実は書かれてないが、あとがきに男性の社名と名が記され「留学中にお世話になった方々にお礼を申し上げたい」とある。石井氏はここに目をつけた。存在を消したければ名前を書かなければいい。それなのにあえて社名とフルネームを記すとは、「しゃべるなよ」のメッセージではないか、と。

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彼女の物語に巻き込まれていく不安……