「誰もが長寿を喜ぶ時代ではなくなった。肉親には長く生きてほしいと思っても、自分自身はほどほどにと思う人が少なくない」と指摘するのは、ライターの永江朗氏だ。

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 胃瘻だの点滴だの酸素吸入だの全身に管を刺され、意思表示もままならぬまま死にたくない。かといって、家族には一分一秒でも長く生きてほしいと思うのも人情か。

 中村仁一の『大往生したけりゃ医療とかかわるな』は、上手な天寿のまっとうのしかたを教えるガイドブックである。著者は病院院長、理事長を経て、現在は老人ホームの付属診療所長。行政用語では「配置医師」というそうな。

 語り口はユーモラスである。いや、ときに大爆笑。「医学界の綾小路きみまろ」と呼びたい。模擬葬儀で段ボール製棺桶に入った著者の写真まで載っている。

 主張はシンプルだ。現在の延命治療は拷問のような苦しみを与える。ところが、衰えに身をまかせる「自然死」ならば、気持ちよく楽に死んでいくことができる。そのためには「医療とかかわるな」というのである。

「本来、年寄りは、どこか具合の悪いのが正常なのです」と著者はいう。原因が加齢なのだから、医者や薬でどうなるものでもない。しかたないと諦めればいいものを、「老い」を「病」にすり替えていると著者は批判する。

 著者おすすめの死にかたは「がん」だそうだ。がんというと、痛い、苦しい、というイメージだが、完全に放置すれば痛まないのだそうだ。それどころか、最期には意識レベルも下がり、脳内にモルヒネ様物質が分泌されて、おだやかに安らかに逝けるという。終章には治療行為の中止など事前指示の例文もあって実用的だ。

※週刊朝日 2012年3月9日号