近年、通勤客の着席ニーズに応えるべく、「通勤ライナー」などと呼ばれる有料着席列車が増えている。関東地方は効率的な車両運用を重視して、編成全体を回転クロスシートとロングシートに転換できる「デュアルシート」車とし、特急列車に近い雰囲気を醸し出す。
【図】有料着席列車内のネット環境などハイスペックなのはどの列車?
一方、関西地方は本格的なものにこだわり、編成の一部にリッチな車両を用意する傾向が見られる。東西の着席列車に考え方が異なるようだ。
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■一般列車用で登場したデュアルシート。その後、簡易優等車両に発展
“究極の座席”といえるデュアルシートは、ロングシートとクロスシートで転換できる座席である。近畿日本鉄道が開発したもので、1996年1月に2610系の改造にて登場。ロングのLとクロスのCの頭文字をとった「L/Cカー」と銘打った。ラッシュ時はロングシートに設定することで混雑緩和を図り、それ以外は回転式クロスシートに設定することで、ロングシート車とクロスシート車の二重投資を抑えたのだ。
試験的に運用したところ、乗客から高い評価を得たことで、後に5800系などの新型車両にも採り入れられた。
これに注目したのがJR東日本である。2002年10月、山手線用の205系を仙石線用に転用改造された3100番代が登場した。一部のクハ205形をデュアルシートを採用し、「2WAYシート」と銘打つ。日中は回転式クロスシートに設定することで、観光輸送に特化する役割が与えられた。
ここまでは一般列車のみの運行を前提としていたが、東武鉄道はその概念を打ち破る。一般列車と優等列車(ここでは有料列車を指す)を使い分ける“簡易優等車両”という新しい発想を生み出したのだ。
2008年2月に登場した東上線用の50090型は「マルチシート」と銘打ち、一般列車運行時はロングシート、有料座席列車の「TJライナー」運行時は回転式クロスシートに設定した(現在は運賃のみで乗車できる川越特急、快速急行、一部の各駅停車にも設定)。
東上線は東武本線(東上線、越生線を除く各線の総称)と異なり、特急形電車が配置されていない。加えてトイレ付きの車両がなく、車両基地で汚物処理もできない。さらに老朽化した8000系の置き換えも兼ねており、車両運用の効率性を重視したのだ。