7月の高梨雄平と高田萌生のトレードは巨人から要望があったとのこと。高梨は過去3年で貴重な働きをしたリリーフ左腕だが、どちらかといえばワンポイントで左打者を封じるタイプ。来季以降には事実上のワンポイントリリーフ禁止ルールが導入される可能性があり、渡りに船とばかりに高梨を早めに見切って若手投手と交換したとの見方もできる。
高年俸の元主力や余剰戦力のベテランを早めに放出し、数年先を見据えて若手を獲得する手法は石井GMがかつてプレーしたMLBではごく普通に行われているやり方。NPBではいまだにトレードというと頭打ちの選手同士が環境を変えるために行われるといったマイナスイメージがあるが、MLBでのトレードとは相手に望まれて移籍する誇りあるものが多い。財政的に高年俸となった主力を抱えきれずに泣く泣く放出する例もあるが、それとても交換相手となる若手たちからすれば、あの大物との交換だという箔がつく。
またGMという役職についても、NPBとMLBでは権限に大きな差がある。日本ではGM(あるいは編成部門のトップ)と言えども現場を預かる監督の方が影響力が強いことがままあるが、MLBでは明確にGMのほうが監督よりも立場は上。選手獲得やコーチ人事などチーム編成の全てを掌握するのがGMであって、監督とはGMが整えた戦力を駆使して試合で結果を出す前線指揮官でしかない(ただし現場では絶対的な権限が与えられるのが通例)。
自分との個人的な縁も生かして大物FAを次々と獲得し、トレードも積極的に仕掛けてチームの活性化を図ろうとしている石井GMに対する評価は、最終的に楽天がどこまで勝てるかによって決まる。これは結果がすべてのプロ野球である以上は当然だが、それとは別に現在敷いた布石が将来どこまで生きてくるかもしっかり確認したい。
生え抜き選手が次々と放出されるとなればファンとして複雑な心境になるかもしれないが、数年後には石井GMの手法がスタンダードになっている可能性もある。そのときは移籍市場の活発化によってプロ野球全体がこれまでとは違った盛り上がり方を見せているのかもしれない。(文・杉山貴宏)