『サウスポー』というだけで特別な投手のイメージが湧く。しかし高校球界で絶対的存在だった左腕が、必ずしもプロで結果を残せているわけではない。
昨年までドラフト1位で指名された高校生左腕は54名いるが、100勝以上をマークしたのは江夏豊(阪神など、206勝)と石井一久(ヤクルトなど、NPB143勝、MLB39勝)のみ。川口知哉(平安→オリックス)、辻内崇伸(大阪桐蔭→巨人)など鳴り物入りでプロ入りしたものの、大成できずにユニフォームを脱いだケースも多い。
自身も左腕として高卒ドラフト1位でプロ入りし、20年間(1年は米国マイナー)投げ続けてきた前田幸長氏が、高卒左腕がプロで活躍するための条件や難しさについて語ってくれた。
ーー左投げであることは有利になる。
「打撃技術や用具の進歩は著しいが、根本にあるのは希少性。時代が変わっても左腕有利は変わらない。特に我々日本人は子供の頃から書くこと、食べることは右利きであることが求められる。必然的に左投げも少ない。打者からすると野球を始めた頃から、圧倒的に右投手との対戦が多くなる。人間の『慣れ』や『習慣』は修正するのは難しい。理屈ではなく、感覚的な部分も含め左投手の有利は続くはず。これは米国でも似たような部分がある」
前田氏は左腕であること自体は、強みになると力説する。
福岡第一高時代の88年夏にエースとして全国準優勝を経験。同年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現マリーンズ)に入団。高卒1年目から17試合(うち先発7試合)に登板して2勝を挙げた。その後も先発、中継ぎで貴重な左腕として登板を重ね、95年オフには中日に移籍。安定した活躍をし01年オフにFAで巨人へ移った。07年限りで巨人を退団し米国挑戦、08年はテキサス・レンジャーズ傘下の3Aオクラホマで投げ、同年限りで現役を引退した。
「周囲の先入観もあって、左投げは可能性を信じ投手をやらせるケースがある。逆に右投げはセンスが良くても投手としての適正がなければ、野手に転向させる場合が多い。身体が大きくないがセンス抜群の左腕が多いのはそのため。自分の身体をうまく使いこなせている。でもプロではそれだけで通用しない。制球力や決め球などを身につけないと、長く生き残れない」