

大動脈が膨らんで瘤のようになる大動脈瘤。破裂すると命にかかわるため、瘤を破裂させないための治療が必要だ。治療の一つが、外科手術である人工血管置換術だが、治療のタイミングや患者の体力などに合わせて判断することが大切だという。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』で、専門医に取材した。
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大動脈瘤が膨らみ続ければ、やがて破裂して大出血を起こし、死亡する危険性が高い。このため、「瘤を破裂させない」ことが大動脈瘤治療の目標である。川崎幸病院院長の山本晋医師は言う。
「大動脈瘤の治療法は二つあります。一つが外科手術によって、瘤ができた部位の大動脈を切除して、人工血管と入れ替える人工血管置換術です。もう一つがカテーテル治療で、瘤ができた大動脈の血管内にステントグラフトという人工血管を留置して、瘤への血液の流入を止めるステントグラフト内挿術です」
人工血管置換術は、大動脈の血流を止めるために心臓を一時的に止めて実施されることが多い手術だ。この場合、血液を体外で循環させる人工心肺を使用する。
胸部を縦に20~30センチ、瘤が大動脈の胸部から腹部まで続いている場合(胸腹部大動脈瘤)はさらに大きく切開する。次いで、血流を人工心肺に通して心臓を一時的に止め、大動脈を切断する態勢を整える。
そして、瘤ができた部位の大動脈を切除し、人工血管に入れ替え、もとの血管と縫い合わせる(吻合)。大動脈への血流を戻し、吻合箇所からの血液のもれのないことなどを確認したうえで、切開部を閉じる。
瘤の位置や患者の状態などによって異なるが、一般的に、手術中の出血のほとんどが回収・再利用される。ただ、数百ccは破棄となり、一定量の輸血が必要になる。平均的な手術時間は4~8時間。術後の入院期間は1カ月程度の場合が多い。
榊原記念病院心臓血管外科主任部長、帝京大学病院心臓血管外科主任教授である下川智樹医師は、人工血管置換術のメリットを次のように説明する。
「瘤は取り除かれるので破裂の危険性はなくなり、その後の通院もほとんど不要です。人工血管は半永久的に使用でき、将来、入れ替える必要もありません」