「これらの合併症のリスクが、瘤が破裂するリスクを上回っていれば、手術は少し待ってからとなり、逆に1年以内に破裂するリスクのほうが高ければ、手術をおすすめすることになります」(下川医師)
治療の対象となる瘤の大きさは、治療のための指針でも「5~6センチ以上」となっており、医療機関ごとに異なる。先天的に血管が弱い人には5センチ、瘤の位置や形状によっては4・5センチの段階ですすめることもある。山本医師はこう話す。
「60歳以上で、大動脈がステントグラフトを安全に留置できる状態ならステントグラフト内挿術でもよいでしょう。ただ、瘤が5センチを超えたら基本的にすべての患者さんに、とくに60歳未満なら、その後の長い人生を考慮して、根治が可能な人工血管置換術による手術をおすすめしています」
大動脈の中でも心臓と接する部位である大動脈基部にはステントグラフトを留置しづらく、ほぼ全例で人工血管置換術となっている。
下川医師も基本的に人工血管置換術をすすめるとして、次のように話している。
「下行大動脈瘤で65歳以上ならステントグラフトでよいでしょう。そのほかの部位でも、80歳くらい以上の高齢の患者さんなどはステントグラフトがよいかもしれません。しかし、たとえば80歳でも、普段、元気にされていて、手術に耐えられる体力のある方なら、確実に瘤の破裂を防ぐことができる人工血管置換術のほうがよいと考えます」
なお、胸部大動脈瘤の治療も含む心臓手術に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。
手術数でわかるいい病院
https://dot.asahi.com/goodhospital/
(文・近藤昭彦)
≪取材協力≫
川崎幸病院 院長 山本 晋医師
榊原記念病院 心臓血管外科主任部長 帝京大学病院 心臓血管外科主任教授 下川智樹医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より
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