タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
【写真】新宿御苑の敷地内に設置されたテントでワーケーションを体験する人たち
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ネットを見ていると「ワーケーションは、政府が電通と結託して急ごしらえした怪しい和製英語!」という声が少なくない模様。でも、私の知人には以前から地道に取り組んでいる人たちがいます。確かに、広告代理店への利益供与が疑われる持続化給付金の例に加え、よりによってコロナウイルス感染拡大第2波の瀬戸際で急にワーケーションなどと言い始めた政府には批判が集まって当然だけど、働き方の多様化や地域の活性化を視野に入れたワーケーションの取り組み自体は悪くない。
WorkとVacationを組み合わせたこの言葉、数年前からアメリカで使われ始めたようですが、日本ではいち早くJALが2018年に導入しています。自然の豊かな場所やのんびり寛(くつろ)げる温泉などに滞在し、ネットを使って仕事をする。残業が多くなかなか休みを取らない社員たちの有給休暇取得の促進が狙いだったようです。結果として休暇取得者数が大幅に増え、仕事の効率も上がることが判明。地域活性化にも貢献しています。
和歌山県白浜町や長崎県の五島列島では、企業などと連携してワーケーションの受け入れ事業を進めた結果、移住者が増え、地元で起業するケースも。企業にとっては働き方の多様化や生産性向上に加え、新たなビジネスチャンスとしても魅力があるようです。ユニリーバ・ジャパンでは、北海道や東北など全国六つの自治体と連携して、人口減少に悩む地域の課題解決に協力しながら社員の労働の質や幸福度の向上を図っています。
政権憎しのあまり「ワーケーションなんてどうせ休み中も働かせようという企(たくら)みだ」「日本人になじむはずがない」と言うのは、各地でせっかく育ちつつある取り組みの芽を摘むことにもなりかねません。地道に積み上げてきた人たちにとっても、今回の発言はいい迷惑かもしれませんね。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2020年8月10日-17日合併号