「人間は進化したら何になるの?」
「どうして、“わたし”は“わたし”なの?」
発想豊かな子どもの疑問に大学教授が本気で答える連載「子どもの疑問に学者が本気で答えます」。子どもに聞かれて答えられなかった疑問でも、幼い頃からずっと疑問に思っていることでも、何でもぜひお寄せください。明治大学教授の石川幹人さんが、答えてくれますよ。第21回の質問は「お母さんのおなかの中に居た頃のことを覚えていると言っても信じてもらえません。どうして?」です。
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【Q】お母さんのおなかの中に居た頃のことを覚えていると言っても信じてもらえません。どうして?
【A】3歳までの出来事の記憶は、ほとんど後から作られていると思われているからです。
私の小さい頃のあざやかな記憶は、3歳のときに親に連れられて行った幼稚園の入園準備審査の様子です。そこでは、先生に手を引かれて机の前に座らされ、絵本を読んで聞かされました。でも、読み聞かせがすぐに退屈になった私は、別の机に置かれた玩具に興味をひかれ、勝手に歩き回ったところ、先生に元の机まで引き戻されました。そのとき、「全部終わったら、これをあげますよ」と、“終了のごほうび”を見せてもらいました。そのごほうびは、折り紙で作られたきれいなかごで、中にキャンディが3つ入っていました。
一応納得した私は、もとの机にいったん戻ったものの、退屈な時間に耐えきれず、また歩き回ってしまいました。その審査は、すべての机を順番に回れる落ち着きのある子が合格だったようです。私は2つ目の机に行くことなく、“終了のごほうび”をもらって帰されました。帰り道、私はごほうびをもらってうれしかったのですが、親は悲しそうだったのを覚えています。とうぜん、幼稚園への入園は1年遅れました。
私にとってこの出来事の記憶は、たいへん鮮明です。とくに折り紙のかごは、それまで見たことのないデザインで強く印象に残っています。さて、こうした幼少期の出来事の記憶を、心理学ではどのようにとらえているかをお話ししましょう。
まず、多くの人に3歳までの出来事の記憶はほとんどありません。この理由は、その時期に脳が急速に成長するので、体験の断片的な記憶があったとしても、脳の成長によって配線が変わり、いつどこで誰が何をしたというような体系的な記憶として残らないからです。
また、私のように、たとえ3歳時に体験した出来事の鮮明な記憶があったとしても、それを3歳のときの体験をそのまま覚えていたとは判断しないのです。