「新型コロナの前から森友・加計問題や桜を見る会の問題がノイズのようにあり、人々の政治不信は高まっていた。そこに、新型コロナ対策における初動の遅れ批判や、経済対策が小規模であるという批判といった新しい問題が重なり、それが内閣支持率の低下につながりました。どの世論調査を見ても、第二次安倍政権発足以来、最低の水準まで落ちています。そこで人々の反応を政治に都合よく取り込もうとして、“耳を傾けすぎ”るようになったのです」
そうして乱発された場当たり的な対策が「声をあげた」人たちにとって望ましい将来につながるとはかぎらない。
「新型コロナ対策のコストは、二度の補正予算だけでも約57兆円が当てられました。日本の通常時の予算がおよそ100兆円ですから、およそ6割にあたる額です。当初、日本の経済対策は小規模だと批判されましたが、世界屈指の規模です。しかしこれは、赤字国債を発行してまかなわれます」
つまり、効果も公平性も明確とはいえない対策のために、われわれは中長期のリスクを抱え込んでしまったといえる。
「効果を重視するのであれば、一見民意に反する対処を政府が遂行するということはありえるわけです。自由民主主義の社会における『民意』は正確さを必ずしも保証しませんし、それで構わないはずだからです。だからこそ説明や説得を重ねるというプロセスは欠かせません。そもそも為政者と人々のあいだには情報量に圧倒的な差がありますから、それを伝えて理解を得るというのが、ある種の責任倫理の貫徹の仕方でしょう。しかし、現在の政府においては、そのような気配はまったく見られませんでした」
安倍晋三総理の記者会見は6月18日以降、現時点(7月29日)まで1カ月以上も開かれていない。このような国民への説明や説得を忌避しようとする姿勢が、政府の「耳を傾けすぎる」化にいっそう拍車をかけているといえるだろう。(取材・文/三浦ゆえ)
西田亮介(にしだ・りょうすけ)
1983年、京都生まれ。専門は社会学。博士(政策・メディア)。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)などがある。最新刊は『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版)