「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第30回は、コロナ禍の前に訪れた沖縄の伊良部島について。
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新型コロナウイルスの感染が広がる前の2月。沖縄の宮古島に渡った。沖縄離島の全路線バスに乗るという酔狂な企画だった。
宮古島のバスは、宮古島周辺の離島も結んでいる。栗間島、池間島、伊良部島、下地島だ。それぞれが橋でつながっている。
宮古島と伊良部島の間には、3.5キロを超える伊良部大橋が架かっている。無料で渡ることができる橋としては、日本でいちばん長い橋だという。2015年に完成した。
この橋を渡るバスは2路線ある。ひとつは宮古島と下地島に新しくできた下地島空港を結ぶもの。もうひとつの路線は宮古島と伊良部島の集落を結び、佐和田車庫まで走っている。
佐和田車庫に向かう路線を調べながら首を捻った。朝、8時に宮古島を出発する便だけ、本来のルートを逸れ、県立伊良部高校に寄る。全路線に乗るということは、この路線も乗りつぶさなくてはならない。
まず、通常の路線に乗った。運転手さんに伊良部高校に寄る便について訊いてみた。
「8時のバスは、高校生が乗っていないと、通常の路線を走るよー。意味がないからね。最近は高校生もほとんどいないから」
全路線を走破したい身としたら、そういうことでは困るのだ。伊良部高校に寄るかどうかは、乗ってみないとわからないということになってしまう。
伊良部高校にも訊いてみた。2月の時点で、全生徒は20人。2年生が5人、3年生が15人。2019年度から、生徒の募集を停止していた。廃校が決まったのだ。バスを使う生徒がいるかどうかも訊いてみた。伊良部島にはふたつの集落がある。ひとつは伊良部、もうひとつは佐良浜である。
「高校は伊良部の近くにあります。2年生5人は皆、伊良部。徒歩や自転車で通学してます。3年生のなかに佐良浜の生徒がいますが、多くは家の人が送ってきます。たまにバスに乗る生徒もいますが……」