松田さんが懸念するのは、各自治体が実施する「住民検診」で、がん検診を受ける機会が失われていることだ。厚生労働省は4月、都道府県にがん検診の原則延期を要請した。緊急事態宣言解除後は感染防止策を実施条件としたが、各自治体とも現状は全面再開には程遠い。
厚労省の「平成30年度地域保健・健康増進事業報告」によると、1万人が各がん検診を受診した場合、乳がんは29人、大腸がんは16人、胃がんは12人、肺がんは4人発見される。
便潜血検査は、大腸がんのスクリーニングとして行われ、陽性者は内視鏡の精密検査に進む。
「千人が便潜血検査を受けると陽性者は約6%の60人。そこから約2人、大腸がんが見つかります。陽性者の4割には大腸がん予備軍といわれるポリープもある。その両方を発見する機会を失うことになります」(松田さん)
精密検査までの期間が空けば、がんが進行する恐れもある。
「米国の便潜血検査陽性者7万人のデータでは、陽性判定から精密検査まで10カ月以上間隔を空けてしまうと、大腸がんのステージが進行するリスクがあると警告しています」(同)
だが、日本はそもそも米国に比べ、精密検査の受診率が低く、陽性者の60~70%ほどだ。
「感染拡大が続けば、それがさらに低下する可能性がある」
症状が出たときには、病気が進行していることも多い。大腸がんの場合、無症状で発見された場合の約6割が早期がんだが、有症状で発見された場合は約8割が進行がんだ。
医療は命を守る砦だ。国立がん研究センター中央病院は感染対策を取り、5月11日からがん診療の初診受け入れも再開した。
「コロナで検診どころではないという人も、がんが進行して命を落とすリスクを考えてほしい。住民検診で陽性になり放置している人は、可能な限り早く医療機関で精密検査を受けてほしい。それで救える命がたくさんあります」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2020年8月24日号