緊急事態宣言以降、重症化リスクの高いとされる高齢者を中心に、病院の受診控えが広がっている。医師たちは、持病の悪化や、検診の機会の 損失による進行がんの増加を警告する。AERA 2020年8月24日号から。
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「第2波が落ち着くまでは、病院に行かないつもりです。同居している85歳の母にうつしては大変ですから」
東京都内の会社員の女性(63)は、肩とひざの治療のため週に2、3回通っていた整形外科に、3月から行っていない。新型コロナウイルスに感染するのが怖いからだ。
治療を中断したため、肩もひざも、痛みが出てきた。主治医からは容体を確認する電話をもらった。でも、もう少し、様子を見るつもりだ。
「自分の痛みと母の安全とを秤(はかり)にかけて、迷う日々です」
感染の不安による受診控えが深刻だ。日本医師会が7月22日に発表した全国693の病院と診療所に行った調査によると、3~5月の入院外総点数前年比は病院で約4%減、診療所で約16%減。診療科別で特に顕著だったのが小児科(約36%減)、耳鼻咽喉科(約34%減)、整形外科(約15%減)だった。
冒頭の女性が通う都内の整形外科でも、2月頃から受診控えが始まり、3、4月ごろから普段の2割ほど患者が減った。
「骨粗鬆症を防ぐ注射とリハビリがあるのですが、来院してもリハビリせず帰る患者も10人ほどいます」(同院院長)
不安はわかるが、感染リスクはゼロにはならない。受診を強く勧めることもできず、医師としては悩ましい。
持病の受診は不要不急ではなく、必要な用事であるはずだ。だが、生活習慣病を持つ患者にも、受診控えは起きている。高血圧治療に長年携わる東京都健康長寿医療センター顧問の桑島巖医師は言う。
「ある70代の女性は、今年2月に来院して以来、7月まで感染を恐れて病院に来ず、処方した3カ月分の薬も切れていた。血圧はかなり上がり、動脈硬化が進んでいる可能性がありました」