アクティビストでジャーナリストだったユダヤ系両親のもと、共産主義国ポーランドで育ったホランド監督。20代で監督デビューし母国で活躍するが、戒厳令が敷かれた81年に祖国を脱出。以後ヨーロッパやハリウッドでめきめきと頭角を現した。本作も含め彼女は自らのアイデンティティーや東欧を作品のテーマにしてきた。

「幸運だったと思う。母が私を尊重してくれた。だから自分では男性と同じこと、それ以上をやる権利があると感じた。映画学校時代も、女性であるという点はあまり問題ではなく、最大の問題は共産主義のかざす権威だった」

 政府とメディアの癒着、氾濫するフェイクニュース──。本作を観て感じるのは、スターリン体制下のソ連と現代社会に多くの通じる部分があることだ。

「共産主義の国では女性は政治に関われなかったから、映画かなと思った。ロマン・ポランスキーに『もし政治またはビジネスに関わる機会があったら、君は映画監督になっていなかったろう』と言われた」

◎「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」
名もなき一人のジャーナリストが知られざる闇に迫る。8月14日から全国公開

■もう1本おすすめDVD「COLD WAR あの歌、2つの心」

 パヴェウ・パヴリコフスキは、現代のポーランド映画界を代表する監督だ。アグニェシュカ・ホランドが戒厳令の敷かれたポーランドを離れる10年前、14歳で母に連れられドイツへ渡った。長い間英国を基盤にしていたが、2013年にポーランドに戻る。帰国1作目にあたるのが本作だ。

 舞台は第2次大戦後のポーランド。愛国主義的な意気を盛り上げるため、共産党の意向で母国の民族音楽を披露する若手音楽舞踊団が結成されることになり、各地でオーディションが行われる。

 映画はここで出会った若く魅力的で野心家の女性ズーラと、音楽監督のヴィクトルの激しい恋愛を十数年にわたり追う。共産党下の東欧やベルリン、パリなどを転々としながら、冷戦時代を生きる二人の多難な人生を、白黒映像で美しくロマンチックに描く。ポーランドの民族音楽やパリのジャズシーンなどがふんだんに織り込まれた音楽シーンも見どころだ。

 実話ではないが、監督のバレリーナ出身の母と軍人の父との関係がインスピレーションになっているという。アカデミー賞やゴールデングローブ賞をはじめ多くの映画賞にノミネートされた。

◎「COLD WAR あの歌、2つの心」
発売元:キノフィルムズ
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
(価格3900円+税/DVD発売中)

AERA 2020年8月24日号

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