AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」の場面写真はこちら】
* * *
詩人ランボーとヴェルレーヌの破滅的な愛を描いた「太陽と月に背いて」(1995年)、第2次大戦下の実話をもとにした「ソハの地下水道」(2011年)など、数々の問題作を手掛けてきたアグニェシュカ・ホランド監督。最新作「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」では、世界恐慌下の30年代にウクライナで発生した大飢饉ホロドモールの真実を告発したジャーナリスト、ガレス・ジョーンズに目を向ける。
「20世紀の東欧の歴史書を読んで、旧ソビエト政権のスターリン時代に起きた人為的大飢饉のことは知っていた。でも、ガレス・ジョーンズについては長い間忘れていたの。10年ほど前、彼の中国での動向や誘拐事件について文書が出版された。それを読むにつけ、彼こそ知られざる歴史の英雄だと感じた」
ジョーンズは、英国首相ロイド・ジョージの外交アドバイザーを務め、記者としてはヒトラーにインタビューするなど、順調なキャリアを歩んでいた。33年にウクライナに潜入し、スターリンがひた隠しにした大飢饉(ききん)の実態を世界に報道した。演じるのはジョーンズと同じくケンブリッジ大卒の俳優ジェームズ・ノートンだ。
「役にぴったりだと思った。勇敢で才能があり、何げない演技の中に説得力がある。隠されたユーモアのセンスや礼儀正しさは、ジョーンズもきっとそうだったんじゃないかなと思った」
ジョーンズはウクライナでの取材後、更に満州で潜入取材を行い、そこで盗賊に誘拐され29歳でこの世を去った。この映画はジョーンズの体験と、彼と同世代で英国を代表する作家ジョージ・オーウェルの『動物農場』を重ね合わせて描かれる。スペイン内戦に参加しスターリンに批判的だったオーウェルとジョーンズには共通点が多い。