「特に手のひらは容積の割に表面積が大きいため、AVA血管が多い。しかも服に覆われていないので、冷やしやすいというメリットがあります」(平田教授)

 注意すべきなのは、冷やす温度だ。冷たすぎると血管が収縮して、かえって血流が悪くなる。

「体に当てて痛いのならば冷たすぎます。気持ちいいと感じるくらいが適温で、概ね15~20度くらいとされています」(同)

 平田教授のおすすめは、暑いと感じたら流水に手をつけること。出勤時なら手洗いがてら水道水で涼をとるのでもいい。

 冷やした水入りペットボトルを握る方法もある。昨夏の甲子園では、選手がベンチで手のひらで転がすなどして、体を冷やした。冷凍した保冷材をタオルで巻き、握るのもいいという。

 ペットボトルや保冷材は、時間が経てばぬるくなるが、今年に入り続々と、炎天下でも数十分~数時間、冷えた温度を保つ「蓄冷材」が発売されている。

 大阪市の松浦工業は今年、「アイスバッテリー」を発売。スポーツメーカー「デサント」とシャープも、「適温蓄冷材」を入れたグローブ型の「コアクーラー」を共同開発した。触れたり、握ったりして、体を冷やす。運動や散歩のとき、寝苦しい夜にも効果が期待できるという。

 スーパーラグビーの日本チーム「サンウルブズ」のチームドクターとして、熱中症の予防に取り組んできた坂根正孝医師(筑波学園病院)は、「手のひら冷却は、米国ではプロフットボールNFLや大学バスケットボールチームが採用しています。適温で冷やすだけなら、一般の人も『ながら』で熱中症対策ができる」と歓迎する。

 暑さを感じたら手のひらを冷やす。それが熱中症対策の新常識だ。(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年8月31日号