「メディアなどで高額の離檀料を請求されるトラブルが取り上げられたことから、心配する人が多い。でも、実際にトラブルになるケースは極めて少ない印象です。事前に寺側に感謝の気持ちや墓を移す事情などをしっかりと伝えておけば、トラブルにはなりにくい」

 とはいえ、寺との交渉や自治体との手続き、遺骨の取り出しや墓石の解体などを自力で行う自信がない人のために、これらを支援する代行業者も増えている。イオン子会社のイオンライフ(千葉市)は2平方メートル未満の墓地で19万8千円(税別)から引き受けているほか、ネットを通じたサービスも目立つ。「最近は一定期間が経つと墓じまいをして合同墓などに移るよう、あらかじめ決めておくお墓もあります」(前出の吉川さん)

 中には、墓じまいに後ろめたさを感じる人もいるようだ。他の親族の意向を気にしたり、長く世話になった寺と縁を切ることに罪悪感が生まれたりするのかもしれない。ただ、一番良くないのは寺側や親族とのコミュニケーションが十分に取れないまま年月だけが経過してしまうことだ。

「実際に墓じまいをするかは別として、墓の将来について考えている分だけ故人や仏様に対する気持ちが厚いということ。迷っている間、何もせず放っておくのではなく、困ったらまずは相談してほしい」(田村さん)

 墓じまいの増加や、コロナでお墓参りができない現状と対応するように、最近では自宅で日常的に先祖を供養し、思いをはせることができる仏壇や仏具にこだわりを見いだす人が増えているようだ。はせがわでは、コロナ後に仏壇や仏具の購入単価が上がっているという。

 はせがわによると、近年はモダンな家具調のデザインを選ぶ人が増えたことから、同社も家具大手のカリモク家具(愛知県東浦町)や、老舗メーカーの飛騨産業(岐阜県高山市)など国内の家具専門メーカーとコラボして、洋室のインテリアになじむ仏壇や、集合住宅にも合うコンパクトなサイズの商品を開発。また、仏壇を新調した人向けに、古い仏壇を引き取って供養するサービスも手がけている。6月には東武百貨店池袋本店にも出店。同社が百貨店へ出店するのは初めてだという。前出の新貝さんはこう語る。

「コロナでライフスタイルが変わっても、仏壇から墓まで、時代に合った祈りの形に対応できるようにしたい」

 ウィズコロナの時代にますます多様化する墓や供養の形。秋のお彼岸を機に、家族と考えてみてはどうだろうか。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2020年10月2日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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