粘りに粘り、翌日の午後六時に修理担当者を寄越してもらうことになった。

 わたしは再認識した。我が家のライフラインだ。一に水道、二に電気、ガスはなくてもなんとかなるが、電話回線がなければ収入の途(みち)がない。

 ──と、そんなやりとりをしているうちに歯科医院に行くのを忘れた。またガラケーで電話をして午後七時の予約をとり、診てもらった。歯医者さんいわく、高齢者は歯が脆(もろ)いし、神経も細くなっているそうだ。家に帰って、よめはんに、「こうやってよぼよぼになっていくんやで」というと、「ほんまにね、こんな大きな爺(じい)さんがよぼよぼになったらどうするんやろ。風呂にも入れられへんわ」「ちょっと待て。自分は齢をとらんのか」

「ハニャコちゃんは森の妖精やから齢をとりません。ピヨコは路地裏のゴキブリみたいにカサコソ元気です」「褒めてくれて、ありがとう」

 そのあと近所の和食屋に行き、よめはんは二千二百円のお刺身(さしみ)ご膳、わたしは八百円のカレーうどんを食った。

 ──翌日、NTTの修理チームが三人も来た。仕事部屋の回線を調べる。オカメインコのマキが三人の肩に代わるがわるとまるから、よう馴(な)れた鳥ですね、といわれたが、それはちがう。マキは縄張り荒らしを追い払おうとしたのだ。

 修理チームはさすがにプロだ。回線は無事復旧し、パソコンの再設定も五分でしてくれた。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2020年10月16日号

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