内館:記事で読んだ話なんですが、介護の現場で、のみ込む力が弱くなった高齢者に、ごはんとかおかずとか全部ミキサーにかけて食べてもらおうとした。ところが、口をぎゅっと閉じて食べてくれなかったそうなんです。困っていたところ、別の担当の人が、お魚や煮物をまず見せてから、ミキサーにかける。そうすると食べるんですって。そのうちに、ミキサーにかけなくてもちゃんと食べて元気になったって。

くさか:介護現場の創意工夫のいい例ですね。

内館:私、何年か前に出先の盛岡で、急性心臓病で倒れたんです。救急車で岩手医大病院に運ばれて13時間の大手術を受けて、2週間意識不明だったらしいんです。意識が戻って、そのとき初めて流動食が出たんですけど、食べられなくて。

くさか:ドロドロにして食べさせるというのも、おいしく食べてもらおうということよりも、生きさせないといけないというのが先にきちゃうからでしょうね。それじゃあ介護するほうもされるほうも、面白くなくなっちゃう。どう手をかけて、どう楽しむのかというところがクリエートなんだと思いますね。取材でお会いしたヘルパーの一人は、それが難しければ難しいほどやりがいを感じるとおっしゃって、そこを探っていく、見つけていくというのが宝探しみたいで本当に面白くて、と話していました。

内館:「ケアママ!」の主人公の名前も“たから”ちゃんですもんね(笑)。あるファッションデザイナーに聞いたのですが、高齢者施設にボランティアで訪れるときにハンカチやスカーフの明るい色や柄のものをたくさん持っていくんですって。いきなり明るい色の洋服を着てみましょうと言っても、「絶対嫌だ」と断られる。「スカーフだけレモンイエローにしてみましょうか?」とか「ボタンをピンクに変えてみませんか?」とか、小さなところから変えていくと、次はもう少しピンクやイエローの面積が増えても大丈夫になっていくんですって。髪を少しおしゃれに切ってもらうだけで元気になったりするのも、ひとつの“クリエーティブ”ですよね。

(構成/本誌・太田サトル)

>>【後編/内館牧子「“若者には負ける”がいい老後のスタート」 人生100年時代の生き方】へ続く

週刊朝日  2020年10月16日号より抜粋

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