「自分のままならなさみたいなものを書くことで、自分自身について整理ができます。さらに原稿料も支払われる。自分が書いたものを、お金を出してまで買いたいという人がいるという事実は、すごく自己肯定感につながります。自分の負の歴史、黒歴史だと感じていたものが世の中の役に立つわけですから」

 来年2月に発行予定の次号のテーマは「お金」だ。当事者の生きづらさや、実際リアルに感じていることに寄り添いたい、と石崎さんは意気込む。

 当事者発信の形として、「引きこもり文学大賞」なる賞も生まれている。精神科医の東徹さん(41)が19年に創設した。普段の診療だけでなく、役所の精神科関連の相談業務などでも、ひきこもり当事者や家族と接する機会があるという東さん。昨今「ひきこもり問題」に関する報道が増える中で、違和感を抱いていたという。

「ひきこもりは悪いこと、なんとか社会に出さなければいけない、という観念が非常に強いように感じました。ひきこもりの人に対する風当たりが大きくなればなるほど、当事者はよりプレッシャーを感じ、ストレスを抱え、自己肯定感を持てなくなり、結局、ひきこもりのまま苦しみ続けます」

■とりあえず書き始めた

 自身も1年間のひきこもり経験を持つからこそ、なんとかそうした価値観を逆転することができないものかと考えを巡らせた。そして思いついたのが引きこもり文学大賞だった。

 クラウドファンディングで資金を募り、賞金に。支援した人は、大賞を決める投票に参加できる仕組みにした。第1回は80通以上もの応募があった。

 今年、「糸色、ふたりのこころ」と題した作品で入賞を果たしたペンネームまやさん(20代女性)は、うつ病を発症して部屋から動けなくなった経験を持つ。元々は本が好きだったのに、読むことも書くこともつらくなったという。薬を飲み続けて回復しつつあったときに、母親が新聞を見て「引きこもり文学賞があるよ」と教えてくれた。

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