アルコール依存症の患者同士がワークブックを用いて依存症について学ぶSARPPでは、飲まない苦労や喜びを話し合いながらよりよく生きる方法を模索する(写真:神奈川県立精神医療センター提供)
アルコール依存症の患者同士がワークブックを用いて依存症について学ぶSARPPでは、飲まない苦労や喜びを話し合いながらよりよく生きる方法を模索する(写真:神奈川県立精神医療センター提供)
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 アルコールやゲームなど、身近にあるさまざまものが、自分でも気づかないうちに依存につながることは珍しくない。もし、家族や自分が依存症を疑ったとき、どうすればいいのか。AERA 2023年2月6日号の記事を紹介する。

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 都内在住の電話相談員(50)は、インターネット依存に悩んでいる。ネット上に仕事の話を書き込んだことで、職場でトラブルが起きたこともある。だが、その後も書き込みをしたい気持ちは収まらず、投稿を続けた。

「なるべく話をぼかして、わからないようにとは考えるようになりました。書かないで自分のなかにしまっておくことができなかったんです」

 幼い頃から親との関係がうまくいかず、五つ下の妹の世話をしてきた。35歳でうつ病の診断を受ける。薬の関係で今はお酒を飲まなくなったが、「アルコール依存一歩手前だったかもしれない」と振り返る。日本酒の一升瓶を空けたり、お酒でやらかした恥ずかしさから、職場に行けなくなりそのまま仕事をやめたこともあるという。

 神奈川県立精神医療センターの依存症研究室がアルコール使用障害と薬物使用障害の患者を対象に実施した調査では、15歳以前の「逆境体験」が依存症と密接に関わっているという結果が出た。研究に携わった医師の小林桜児さんは言う。

「殴る蹴るといった身体的暴力から、ネグレクトのような心理的虐待、親からの過剰な期待、ヤングケアラーなど17の項目で患者さんにアンケートを取っています。平均すると、アルコール依存症の方の80%が三つ、薬物依存症の方の93%が四つ以上の逆境体験を持っていました」

 いつ父親に殴られるかわからない、学校に行けば今日もいじめられるかもしれない……。逆境体験の多くは、降りかかってくるものを我慢するしかなく、自分でコントロールできない出来事であることが多い。そうした体験を持つ人にとっては、依存症は自分で唯一コントロールできる世界でもあるという。

「依存症は否認の病とも言われますが、病院や家族が自分の行動を勝手に制限しようとすることへの激しい抵抗感があるからです。ただし、逆境体験は要因リスクの一つでしかありません。また、逆境体験を早期に発見することが、依存症発症の予防につながる可能性もあります」(小林さん)

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