「日本では、明治時代初期まで家から犯罪者を出した場合、血のつながりから家族に連帯責任を科す『縁座』という制度が存在しました。その考えが今も残り、加害者家族も当然、制裁を受けるべきだという風潮が残っています」

 19年6月、大阪府吹田市で交番が襲撃され男性巡査が包丁で刺されて拳銃が奪われる事件があった。加害者は当時33歳。加害者の父親は大手メディアの役員だったが、謝罪コメントを出し、職を辞任した。阿部さんは言う。

「特に子どもが重大事件を起こした場合、親に連帯責任を求める風潮が強く、家族の社会的地位が高ければ高いほど、強まる傾向があります」

 日本では19年の1年間に950件の殺人事件が起きた。それだけの数の加害者がおり、加害者家族が存在するのに、現在、国内に加害者家族支援団体はワールド・オープン・ハートを含め3団体しかない。その一つが、山形県弁護士会の「犯罪加害者家族支援センター」だ。

 18年11月、「犯罪加害者家族に対し精神的、経済的、社会的な差別・偏見から立ち直るための支援をすることは弁護士の責務である」として設立。弁護士会が組織として犯罪加害者家族を支援するのは、全国初の取り組みとなった。所属弁護士による法的支援の他、必要に応じて精神科医やソーシャルワーカーへの紹介もする。同センターの遠藤凉一弁護士は強調する。

「犯罪加害者家族は、犯罪被害者とその家族と同じ状況に置かれている」

 犯罪に巻き込まれた被害者とその家族は、精神的ダメージだけでなく、社会からの差別、偏見、一家の大黒柱を失うなどして経済的苦境に陥るケースが少なくない。

 こうした状況に対する支援を目的に05年、犯罪被害者の権利を認めた「犯罪被害者等基本法」が施行された。犯罪被害者支援に公費が投入され、最近では一定の範囲内で精神科医によるカウンセリングや治療を公費で受けられるようになったが、支援は未だ道半ばの状況にあるという。

「犯罪加害者家族はそれと似た状況に陥ることがあります。例えば、父親が交通事故で人を死亡させネット上に父親の名前が出ると、子どもや家族は、学校や近隣において犯罪者の家族としての偏見や差別を受け、子どもがリストカットを繰り返すような事案も発生している。犯罪加害者家族は公的な、あるいは社会的な支援や援助を必要とするマイノリティーに属する人たちなのです」(遠藤弁護士)

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