相談は全国から年300件ほどくる。相談者の年齢は20~90代と幅広く、同NPOが09年から17年3月までの間の加害者家族の状況をまとめた「加害者家族白書2016」によれば、相談を受けた920人の罪名では「殺人」が最も多く122件、次いで「強制わいせつ」(112件)、「詐欺」(99件)と重大事件の加害者家族からの相談が多い。
■相談した家族の9割近く事件後「自殺考える」と回答
加害者家族が受ける現実は過酷だ。
夫が電車内の痴漢で逮捕されたという関東地方の女性(40代)が取材に応じてくれた。夫の逮捕によって、幸せだった暮らしは全てが暗転したという。
「子どものこと、お金のこと、自分のこの先の人生のこと。何より、マスコミに報道され白日のもとにさらされる恐怖がありました。このまま電車に飛び込めば楽になるだろうと思いました」
夫が逮捕されたと聞いた時の心境をそう振り返った。事件は報道されることはなかったが、不安は残った。夫は再犯の可能性がゼロではない。再び犯罪を起こせば、今度こそマスコミが自宅に押し掛けてくるだろう。そうなるとすぐに自宅を引き払わなくてはいけない。そんな残酷なことを子どもたちにさせたくない。
女性は離婚して姓を変え、幼い子どもたちを連れ、住み慣れた地元を離れて今の町に転居した。子どもたちには離婚理由を話していない。今は仕事を見つけ子どもたちと再スタートを切っているというが、こう話した。
「事件のことが頭から離れず、気持ちが楽になることはありません」
同NPOが相談を受けた920人の「事件・事故後の生活の変化」を分析すると(複数回答)、「自殺を考える」が799人と9割近くに及んだ。「結婚破談」(360人)や「進学や就職を諦める」(350人)という人も少なくない。
先の阿部さんは言う。
「共通するのは恐怖感。特にネット社会になり、デジタルタトゥーと呼ばれるように、ネットに一度書かれた個人情報や誹謗中傷は消えずに残ります。その結果、加害者家族はいつまでも十字架を背負うことになります」