くしくも中日・平田良介も、同年5月12日の広島戦で同様のプレーを試みている。
3対0の9回1死一、二塁、谷繁元信の中飛で、二塁走者・福田永将が飛び出してしまう。一塁走者の平田は、福田をアシストしようと、一、二塁間で立ち止まり、挟殺プレーに誘い込もうとした。
小学4年のときに「ドカベン」でこのプレーを知り、「ずっと頭の中にあった」という平田だったが、広島守備陣は惑わされることなく二塁に送球し、併殺を完成させた。
もし、まんまと作戦がハマり、平田がアウトになるより早く福田が生還していたら、“ドカベン走塁”と大きな話題になり、3カ月後の甲子園では、当然相手も警戒して、結果は違ったものになっていたかもしれない。
平田には悪いが、このプレーは、やはり高校球児の聖地・甲子園が舞台というのがふさわしいだろう。
こうしてみると、現役プロ野球選手も含めて、水島氏の作品を愛読している“野球人”がいかに多いかが改めてわかる。
水島氏が引退しても、そんな「ドカベン」の申し子たちがプレーを続ける限り、各作品で描かれた架空のシーンは、これからも現実世界と密接にリンクし続けていくことだろう。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)