■教師はいっさい教えず
同校は表立ってSTEAM教育を謳っているわけではないが、カリキュラムからは「知る」と「創る」の循環も見て取れる。例えば高2で芸術系の進路を選択した生徒が取り組む「子どものための遊具制作プロジェクト」。頭で「子ども」を想像するのではなく、実際に幼稚園児と触れ合い身体測定をするところからプロジェクトは始まる。その後は、材料は段ボール14枚と木工用接着剤とテープだけという厳しい制約の中で模型作りにとりかかる。グループごとにどんな仕掛けで子どもたちを喜ばせるか、アイデアを話し合いプレゼンする。
「教師はいっさい手順を教えず、全部自分たちで考えさせます。試行錯誤を繰り返すうちに、生徒は自身のこだわりや特性がどこにあるのかにも気づいていきます」(杉野さん)
これだ!と思ったデザインが、実際に作ってみると機能的でなかったなど、生徒は多くの壁にぶつかる。だが「自分のためではなく誰かのために作るのは、デザインの仕事そのもの」「ゼロから創るのは他の授業では味わえないワクワクがある」と目を輝かせて取り組む。最終日には幼稚園児を迎えて実際に遊んでもらう。子どもたちが張り切りすぎて、遊具が壊れてしまうハプニングもある。そんな反応を目の当たりにしながら、デザインの本質を学んでいく。
進学レーダーの井上さんは、STEAM教育が、従来の難関校や伝統的に芸術教育に力を入れてきた一部の学校から、中高一貫校全体に広がってきていると指摘する。中高で多面的な学びをしていると、芸術系に進学しなくても、大学での学際的な学びにスムーズに入っていけるメリットもある。
「STEAMで忘れてはならないのは『結果として役立つからやる』のではなく、『面白いからやる』というのが原点だということです」(井上さん)
(編集部・石臥薫子)
※AERA 2021年2月1日号より抜粋