もともと耀哉と鬼舞辻を輩出した産屋敷家は、豊かな財と高い地位にあった。そして、この産屋敷家には、常人とは異なる「能力」が備わっていた。
<特殊な声に加えて この勘というものが産屋敷一族は凄まじかった 「先見の明」とも言う 未来を見通す力 これにより彼らは財を成し幾度もの危機を回避してきた>(16巻・第139話「落ちる」)
しかし、産屋敷一族は皆、30歳まで生きられないという短命の「呪い」がかけられていた。耀哉の説明によると、産屋敷一族が「早死」なことは、産屋敷家が鬼舞辻という「はじまりの鬼」を誕生させてしまったことに対する、神仏からの「天罰」だという。そして、ある神主から、「鬼を倒すために心血を注ぎなさい」と宣託を受けたことを根拠に、千年以上もの間、産屋敷家は鬼舞辻と戦い続けることになったのだった。
■鬼にはあたらない「天罰」?
一方、鬼舞辻無惨は、そんな産屋敷一族の執念、耀哉が引き継いだ怨念を真っ向から否定する。
<お前の病は頭にまで回るのか? そんな事柄には 何の因果関係もなし なぜなら 私には何の天罰も下っていない 何百何千という人間を殺しても 私は許されている この千年 神も仏も見たことがない>(鬼舞辻無惨/16巻・137話「不滅」)
鬼舞辻のこの言葉には、一定の説得力がある。『鬼滅の刃』には、死者が現世にあらわれ、邂逅し、愛した人を励ますシーンが多く見られる。そんな神秘体験が散りばめられた世界観であるにもかかわらず、不思議なことに、「神」や「仏」は、一切登場しない。
鬼による危害をはじめ、貧困、子捨て、人身売買、けが、病など、ありとあらゆる不幸に見舞われる人間たちが、その過酷な運命から脱却するためには、自分の力を尽くすしかないのだ。
■鬼舞辻無惨が「鬼」である理由
<私にはいつも死の影がぴたりと 張りついていた 私の心臓は 母親の腹の中で 何度も止まり 生まれた時には死産だと言われ 脈もなく呼吸もしていなかった 荼毘に付されようという際に もがいて もがいて 私は産声を上げた>(鬼舞辻無惨/23巻・201話「鬼の王」)